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大さんのシニア・リポート~「老人党」かく戦えり(2)
社会
2012年7月 3日 14:23

 市議会議員選挙は惨敗で幕を閉じた。敗因は「準備期間のなさ」と「孤独死に対する認識の地域差」。つまり、地方選挙の戦い方を知らなかったということ。選挙後、高齢者の居場所「幸福亭」をリニューアルして再開亭。助成金を申請したものの、相変わらずハードルが高い。啓蒙のための講演会を禁じられた。行政主導の現実は、ときとして意外な矛盾を生む場合がある。

 選挙には欠かせない「地盤」「看板」「カバン」のうち、かろうじてあるのが「看板」だ、と思い込んでいた。つまり、ノンフィクション作家としての知名度である(実際にはこれもなしに等しかったことを思い知らされる)。「地盤」と「カバン」は確実にない。地盤に関しては、私が住む地区に「大山」という名前がどれほど知れ渡っているかだ。年に4回、主宰する「幸福亭」(高齢者の居場所)の機関紙『結通信』を並木地区に6,000枚ほどポスティングしているが、これも知名度アップを保証するものではない。
 最大の問題はカバンだ。手持ちの軍資金は見事にゼロ。私に信用貸しをしてくれる金融機関も私的な友人も市内にはいない。ここまでくれば、立候補そのものが「あり得ない」ことになる。それを、ある人物が「あり得るかもしれない」という状態にしてくれたのである。

0703_kouenkai.jpg ある人物、それは千葉県松戸市常盤平団地の自治会長・中沢卓実氏である。常盤平団地は1960年竣工(167棟、5,359戸、住民数2万4,000人)のUR(旧公団)賃貸団地。竣工時、「東洋一」と注目を集めたマンモス団地だ。中沢氏は早い段階から自治会長として、「賃貸料値上げ反対、建て替え反対」運動を通し、自治会長として住民から揺るぎない信頼を得た。最近では、多発する孤独死への対策をいち早く提言して注目を集め、NPO法人「孤独死ゼロ研究会」理事長としてマスコミの寵児となった。
私は、拙著『団地が死んでいく』を通して中沢氏と知り合った。その中沢氏が私に言ったのである。
 「あなたは知名度は全国区だ。残念ながら地方区(地盤)ではない。カバンもない。しかし、全国区の知名度を利用しての集金が可能だ。それはカンパを募ること」。
 こうである。立候補理由の趣意書のなかに、カンパと支援者を選挙区内だけではなく全国的に募り、支援者の名前をリーフレットに記載したい旨を書き込むことである。
実践して驚いた。突然カンパの額が増え、約2カ月間で最低必要な選挙費用(200万円超)を調達することができたのである。何かが動いた気がした。中沢氏の目論見が見事に的中した。

 しかし、3月11日の東日本大震災。駅頭での演説ができなくなり、新顔の私には逆風となった。徹底したチラシのポスティングしか方法がない。
 ノンフィクション作家として「幸福亭」を主宰し、「高齢者の味方です」を旗印に、高齢者問題を解決するために具体的に活動しているだけでは看板不足だ。そこで、「幸福亭」のコンセプトである「孤独死からの回避」に、選挙の焦点を合わせることにシフトさせた。中沢氏も同感で、選挙運動中に応援に来ると確約してくれた。これで「鬼に金棒」と確信した。

 選挙が公示され、一週間の選挙戦がスタートした。中日に中沢氏が来て応援演説。しかし、「孤独死」というキーワードは、真逆に作用した。中沢氏の住む松戸市では、「孤独死回避」は十分に市民権を得た「合言葉」だった。しかしここでは忌避され、拒否された。「孤独死のことを考えたくも、聞きたくもない」というのが市民の本音だった。街頭での演説に変化が見えた。潮目が退くように、人が退いていった。私は「負ける」と確信した。そして、その通りになった。

 落選の原因を探るのはそれほど難しくはない。一言で言うなら、選挙準備期間が短すぎたことだ。地方選挙の戦い方を知らない。選挙参謀がいない。同地区に複数の立候補者がいたこと。そして、私の選挙公約の中心をなす「孤独死回避」が、地元民にまったく受け入れられなかったことだ。
 一方で、収穫もあった。「お年寄りの味方です」という標語が、投票先を決めかねていた高齢者の目には新鮮に映ったようだ。お会いしたこともない多くの人から、感謝と励ましの声が届けられた。

 1カ月ほどの休養期間を経て、「幸福亭」はリニューアルのスタートを切った。昨期は行政からの助成金をあえて断った。助成金には介護保険金の3パーセントを上限に、「高齢者に社会参加の場を提供し、寝たきり又は認知症にならないように支援する」ため、一定程度の人数を要する高齢者のボランティアグループに対し助成する意味が込められている。授受するにはいくつかの制約がある。そのなかには、健康体操の実施や地域包括支援センターの「出前講座」が含まれる。「学習」や「啓蒙」という一面もあると思う。しかし、行政の窓口は、「幸福亭」が実施する大きな講演会を想定外の違約だと主張し出した。

 ノンフィクションは取材が基本で、多くの人と会うことになる。当然、その世界のトップクラスの人たちも含まれる。一度知己を得れば、心は通う。通えば、私の提案に応えてくれる。薄謝の講演会に気軽に応じてくれた。それが、二度にわたる「幸福亭講演会」だった。
 初年度は「ふれあいの居場所作り」(講演者・丹直秀氏)、次年度は「孤独死ゼロ作戦に学ぶ」(講演者・中沢卓実氏)。丹氏は、ロッキード事件で時の宰相をやり玉に挙げた検事・堀田力氏の起こした「さわやか福祉財団」のナンバー2。介護保険は堀田氏が起案した。
 介護保険をスタートさせたものの、介護保険の利用者は2割にも満たない。残りの8割のなかには、介護保険金を支払いながら家のなかに閉じこもり、社会とのつながりを持たない高齢者も多い。これに気づいた堀田氏が、介護保険を利用しなくてもいい元気な年寄りを支援するために、保険金の一部を利用(補助)する道を開き、運用を地方行政に任せた。
 堀田氏は丹氏のような優秀な人材を、高齢者の居場所作りに専心する前線に投入して、啓蒙を図った。「さわやか福祉財団」は、多くの企業や行政機関、個人を通して福祉行政に貢献している。
その、本家から派遣された「プロの居場所作り職人」の講演会に、現場の行政窓口が難癖をつけてきたのだ。行政主導という独りよがりが、現場を混乱に導く。
 次回から高齢者問題の現場を、さまざまな視点から報告したい。
 

(つづく)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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