福岡の銘菓「なんばん往来」で知られる福岡県飯塚市の(株)さかえ屋が業界内で注目を集めている。5月中旬、一部の新聞報道により創業家の中野利美社長以下、役員を一新し、新体制となることが発表された。あまりに突然の人事であり、その人事の面々が様々な憶測を呼んだ。テレビCMと番組で華々しく取り上げられている同社内で一体何が起きているのか。
<さかえ屋は我々のお手本だった>
「我々、後発企業にとってはさかえ屋さんは先駆者であり、先生みたいなもの。多くのものを参考にさせてもらっただけに、今回の騒動には驚きを隠せない」と福岡県内の同業者は話す。思い起こせば、10年ほど前は今まで以上に生菓子店はなかったと思える。筆者の地元は福岡県朝倉市。バスセンターの前に店を構え、小さい頃はケーキといえばさかえ屋で、さかえ屋といえばケーキというぐらい、馴染みのある菓子店だった。30年以上前、さかえ屋のイチゴのショートケーキは150円前後だった記憶がある。当時はそれを食べるのがご馳走だった。それから年月が経ち、社会人となってとある菓子店でケーキの価格が1個300円と書いてあるものを見て、"高すぎて買えない"と思ったことがある。筆者のケーキの相場はさかえ屋が基準だったのだ。地元では、しばらくして競合店が進出したが、その店は民事再生法の適用申請を行ない、のちに撤退。さかえ屋の店舗は閉鎖されたものの、近くに場所を移して営業し、今でも根強い人気を誇る。
今でこそスイーツ、パティシエブームが起きたことで、スイーツの需要が高まっているとみられるものの、全体的に見れば、業界は減少傾向にある。経済産業省の商業統計によると、1982年の菓子・パン小売業の商店数は17万5,941店、年間販売額は2兆5,786億円であったが、25年後の統計によると、商店数は6万6,265店と約3分の1まで減少し、年間販売額は2兆721億円となった。販売額も20%ほど落ち込んでいる。スイーツ自体はブームとなっているものの、景気悪化の背景もあり、菓子に対する支出が抑え気味になっているのかもしれない。いずれにせよ小さくなった市場のなかで、消費者にとっては選択の余地が広がっている。このことが、さかえ屋のような老舗菓子店にとってはマイナスであったのだろうか。
<飯塚発祥の地で地元に根付いていた>
「飯塚はひよ子発祥の地だが、早々に福岡に本店を移した。千鳥饅頭はグループがバラバラに散らばった。でも、さかえ屋だけは飯塚市内の人通りの少ない所でも店を構えている。さかえ屋は企業の都合で閉店しない。お客さんの目線で営業していた。小さい頃からさかえ屋のお菓子で育ったから、同業でも思い入れは深い。ゆえに今回のような事態になっても飯塚の地に残ってくれて嬉しい」と飯塚市内の同業者は語るほど、さかえ屋ブランドに市民は思い入れがある。それゆえに新体制は業界内外から注目されている。
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