著者の藤井聡氏は、京都大学大学院教授で、2011年より京都大学レジリエンス研究ユニット長を務めている。ベストセラー『公共事業は日本を救う』(文春新書)の著者で、国土強靭化計画を提唱。最近では、活字媒体のみならず、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」などテレビメディアにも登場し、積極的な発言を行なっており、注目を浴びている。
藤井氏との出会いは文藝春秋社から出版された『公共事業は日本を救う』(文春新書)からである。氏の展開される大胆な主張に心惹かれた。それ以降、氏の発表される著書・論考を可能な限り収集し、精読してきた。
この20年、橋本政権以降、小渕内閣での若干の公共事業の伸びはあったものの、小泉構造改革で大幅削減され、公共事業は税金のムダとされてきた。民主党政権下でも「コンクリートから人へ」などというバカげた発言がいわれるなか、公共投資の縮減は続き、建設業者の倒産が全国で相次いでいる。ここに来てようやくこの状況にブレーキがかかろうとしている。6月4日、自民党が衆議院に国土強靱化基本法案を提出した。この法案は、東日本大震災を受けて、災害に強い国土づくりを進めることを目的とし、公共投資による需要創出で、20年続くデフレから脱却していくことを目指している。財源は国債発行でまかなう。国土強靱化基本法案は、藤井聡氏の理論をもとに法案化されたという。
藤井氏は本書のなかでも、第2章巨大産業の崩壊~建設産業を潰す「コンプライアンス」として1章まるごと割いて、建設業が独占禁止法によって潰されようとしていることに警鐘を鳴らしている。
藤井氏の主張はこうだ。戦後、占領中に米国に押し付けられた独占禁止法が、1990年代の「日米構造協議」によって強化され、独禁法を運用する公正取引委員会が談合システムを摘発していく。公正取引委員会は日本に埋め込まれた経済警察であり、新自由主義路線を進める学者が生み出した装置である。入札制度を、一般競争入札に変えた政府の決定と大手ゼネコンの脱談合宣言は、「中小建設業者は倒産することもやむなし」という降伏宣言であった。談合は、工事の質を確保しながら、建設業がそれぞれの地域で安定的に残され、地域の人々の暮らしや経済が支えられていくものと肯定する。
藤井氏は「日本人にとっての法は、日本人の社会通念・良識に従って、日本人によって日本人のために、つくられなければならない」として、昨今の構造改革を厳しく指弾しているが、アメリカからの要求で郵政民営化をはじめ一連の改革が進められてきた結果は、言うまでもない。TPP(環太平洋経済連携協定)は、タクシー産業や建設産業を衰退させた動きが、食や医療、保険といった生活の安寧を脅かすことに拡大していくもので、日本を存続させるために絶対受け容れてはいけないと反対する。
藤井氏の主張と、大手メディアに跋扈する論調とは全く異なるものだ。氏は、「建設業は悪の巣窟だ」「市場開放は善だ」というメディアや経済学者の垂れ流すプロパガンダに正面から抵抗している数少ない学者の一人。テレビに登場しても堂々たる論陣を展開している。
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