今回のケースは、同族支配が陥りがちな罠を明確に示した事例ということもできるだろう。福岡スプリットン工業の社長は中島祥二郎氏であり、福岡県北部土木ブロック組合の理事長は中島善法氏である。また、組合と信金の連絡役として機能した事務局員は、中島氏と縁戚関係にあるとのことで、こちらも一族と言って差し支えあるまい。組合上層部・組合実務担当者・取引先のそれぞれに配置された一族がトライアングルとなって不正を働いていたとすれば、これを発見することは容易ではない。実際、監査において不正が発見できなかったのも、この点が大きく関わっていると考えられる。組織の要所に信頼できる一族を置く手法が、組織を固める上で有効であることは間違いないが、その副作用にも気を配ったチェック体制を整える必要があったと言えよう。
また、本事例における一連の流れでは、信金のモラルも問われてこよう。福岡スプリットン工業のメインバンクで20億円を超える貸し付けを行なっていた福岡ひびき信金は、一時は財務担当者を同社に送り込み、同信金出身者が代表取締役に就いていた経緯がある。しかも、組合に絡む不正な手形振出に利用された口座やこれを割り引いた金融機関としても、同信金は登場する。ある銀行業務経験者は「手形を振り出したA社と、割引に持ち込んだB社の口座が同一行のものであれば、銀行はA社・B社の関係を全て洗うのが当然」と語る。金の流れをすべて把握できる立場にあり、必要に応じて適切なアドバイスが求められるポジションにあった同信金は、刑事事件にも発展しかねない今回の顛末をどのように捉えるのであろうか。
再生計画案の可決には、(1)債権者の過半数の同意と、(2)債権総額を基準とした議決権の過半数の同意を得ることが必要となる。巨額の債権を持ち、再生計画案の可否に付決定的な鍵を握る福岡ひびき信金の対応は、否応無しに周囲の注目を集めている。
また、同信金は先代・谷石理事長の急逝を受け、新たな体制に移行しつつある。野村広美・新理事長には、事態の解明と行内モラル向上を図る社内整備を望みつつ、本稿を終わりとしたい。
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