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SNSI中田安彦レポート

BNPパリバとフランス金融エリート(中)
SNSI中田安彦レポート
2012年7月11日 07:00

 1980年代、国有化はされたものの、フランスの銀行の機能は「進化」していなかったわけではない。このあたりが"護送船団一辺倒"の日本と違った。国有民営の経営手法のもとで、ソシエテ・ジェネラルなどは従来の銀行業だけではなく、投資銀行業務にも手を広げていった。たとえば、後年、ゴールドマン・サックス・ヨーロッパの副会長となったジャック・マイヨーと言う人物は、仏財務省で11年勤務した後、クレディ・アグリコルに天下っていた元官僚だが、現在のソシエテ・ジェネラルの礎を作る機構改革を行なった。

 BNPでも同種の改革が、官僚出身の金融エリートによって行なわれた。同行は70年代にBanexiという投資銀行部門を開設しており、国有化時にも同部門は活動していた。同部門は現在はBNPパリバのプライヴェート・エクイティ部門となり、Banexi Ventures Partnersというベンチャーファンドにも成長している。要するに「国有化」といっても旧東側のような国家統制をイメージすると間違うということだ。
 95年まで社会党の大統領は続いたが、保守系のシラク首相が登場した86年以降の保革共存政権(第1次コアビタシオン、88年まで)が始まると、国有企業の民営化機運が高まり、BNPに先行して、ソシエテ・ジェネラルが87年に民営化を果たす。BNPなど大銀行は、87年一年で65社以上に登った民営化に関連するビジネスを獲得する。しかし、同年10月のウォール街大暴落の余波を受けたわけだから、先に民営化しなかったBNPの判断は正しかったということになる。この年、パリバ銀行も民営化されている。

 結局、BNPの民営化は93年にずれ込んで実現した。90年代から20年の間にフランス国内でも大銀行の再編が行なわれた。そのメガ再編の先陣を切ったのが99年に起きたBNPとパリバの合併である。この時にBNP側のトップにあったのが、現在名誉会長のミシェル・ペブローであった。この時、ソシエテ・ジェネラル側はダニエル・ボートンCEOの体制下にあった。2人は共にENA出身の「ゼコール官僚」であった。まず、ソジェンとパリバの合併が発表され、これにペブローが対抗買収提案を出すというかたちで事態が進んだ。しかも、ペブローはBNPが他の二行も買収し、「スーパーバンク」(BSP)を作るという大風呂敷だった。ペブローは、米、英、スイス、ドイツにも対抗し得る大銀行を作るべきだという考えだったが、注目すべきはこれが英米型の敵対的買収(TOB)であったことだ。
 ただ、これにはBNPを支援する仏政府の意向もあった。ペブローと、ボートンは共に元官僚だったが、ほぼ十歳年長で財務省により深い人脈を持つペブローの勝利であった。

 結局、ソジェンは買収提案を退けることに成功したが、BNPはパリバを獲得。ソジェンのボートンは以後、一時、クレディ・リヨネの株式を一部取得するものの、リヨネは2003年にクレディ・アグリコルに買収されてしまう。

 ここでリヨネとアグリコルについて説明したい。
 1863年からの歴史を持つクレディ・リヨネは、農業系金融を出発点に一般的な信用組合に業務を再編していくことに成功した、クレディ・アグリコルに買収されることになる。アグリコルは、要するに日本で言えば農林中金に相当する、小規模な農業者の金融支援を本来の目的に設立された協同組合的な金融機関である。1926年に現在の母体となるCNCA(Caisse Nationale de Credit Agricole)に改組されるが、農業大臣の所管にある点で政府の統制に服していた。
 だが、戦後66年に非農業者の個人や団体への融資も容認され、70年代には農業金融の独占的状況が民業圧迫と批判されたが、やがて国際部門や100人以下の従業員の中小企業までも融資対象に認められるようになった。
 その結果、国有化政策が行なわれた82年には全融資の3分の1まで農業関連は減少していた。80年末にはアグリコルも民営化され、相前後して保険業務にも参入する一方で、農業金融の独占的立場は失われた。

 これにより、アグリコルは普通のフランス銀行と変わらなくなった。96年には旧植民地銀行であるインドスエズ銀行を買収し、04年には経営不振に陥っていたリヨネを買収し、これをカリヨン証券(現クレディ・アグリコル証券)と仏国内のLCL銀行に再編した。アグリコル・グループは、アジアに特化した証券部門であるCLSAも擁し、国内的にはいまだ農業金融のトップを担うが、インドスエズ銀行の後継機関としての性格も強めていることは注目すべきである。

(つづく)
【中田 安彦】

≪ (前) | (後) ≫

※フランスの「ゼコール官僚出身」の金融エリート
<BNPパリバ>
ミシェル・ペブロー(1942年生)現名誉会長
ジャン=ローラン・ボナフェ(61年生)現CEO
ボードワン・プロー会長(51年生)現会長
<アクサ>
クロード・べべアール(1935年生)アクサ名誉会長(BNPパリバ社外取締役)
アンリ・ドゥ・キャストリ(1954年生)現会長兼CEO(現ビルダーバーグ会議議長)
<ソシエテ・ジェネラル>
ダニエル・ボートン(1950年生)前会長、前CEO
フレデリック・ウデア(1963年生)現会長兼CEO

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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