12日、ヤマダ電機によるベスト電器買収のニュースが世間を賑わせた。ヤマダにしてみれば、1度目の買収を仕掛けた07年以来の悲願、ベストにしてみれば、家電量販店戦争に敗北した悲哀、といったところだろう。
それにしても、ヤマダのM&A戦略は容赦ない。ベストの株は今年、6月5日に年初来安値で1株131円まで落ち込んでおり、「野菜と同じ値段になってしまった」(株主談)。このタイミングでの買収は、さながら虎視眈々と獲物が弱るのをじっと待っていた百獣の王である。
胸をなでおろしたのは、メインバンクである西日本シティ銀行だろう。ベストへの多額の貸付金を回収するため、少し前は不動産売却に躍起になっていた。経営にも口を出し、2010年の事業構造改革と代表取締役解任劇を演出した。
そんな西日本シティと経営陣の相克のなかで社員の士気は下がり、一般消費者からも見放され、ベストの12年2月期の売上高は最終防衛ラインだった3,000億円台を割り込み、2,617億円にまで減少。ヤマダの1人勝ちが目立ち、コジマを買収したビックカメラからも見放され、もはや自力での反転攻勢はほぼ不可能な状況だった。
今回の買収劇について、「何よりヤマダは徹底的に人材教育をしている。そのため、従業員1人当たりの売上高も良好だ。一般社員にとっては給料や福利厚生も良くなるはずだし、胸の内は拍手喝采ではないか。ただし、幹部社員にとってはこれから厳しい処遇が待ち受けているだろうから、ヒヤヒヤものだろう」とは、上場企業のM&Aを見てきた人物の談である。
今年3月、「ベスト電器の再生を阻む過去のくびき」と題した、ベストの不正にまつわる検証記事を掲載した。この記事をヤマダ側が読んでいるかどうかはわからないが、あえて提言するならば、まずはこうした過去の負の遺産を一掃するのが先決だろう。とくに、ベストをめぐる利権構造の闇を徹底的に暴き清算するのが大事だ。
そして次は、劣化した社員の再教育である。九州地区の市場強化のために買収するとするならば、まずは地域社会に受け入れられる企業風土の再構築が求められる。有力地場企業が「地場企業」でなくなるのは残念だが、法的手続きなどに陥った場合の福岡経済への影響を考えると、もはやこの選択肢しか残されていなかったのだろうか――。
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