「この前、同伴で回らないお寿司に連れて行ってもらったの」と、その店では初めて顔を見る新人?が、自己紹介のネタがつきたところで言った。「回らない」と言えば、「回る」がメジャーになっている業界で"高級"を意味する。小生が子どもの頃は、寿司は高くて「回らない」のがあたり前で、むしろ「回る」ほうが希少価値が高かった。ところが最近は、回らなくてもお得感をウリにする寿司屋が大人気。それゆえ小生は、リアクションに困ってしまった。
出勤前の店の娘と一緒に食事などをする『同伴』。お気に入りをひとり占めするチャンスであり、たいていの客は見栄を張って、普段行かないような上等な店を選ぶもの。しかし、ここ数年のデフレは、寿司でさえも、身近なものにしたようだ。そう言えば、中洲地区界隈の寿司屋で、『同伴』と思わしきカップルが寿司を食べている風景をよく見かけるようになった。ほかにも3,000円もあれば、たらふく飲み食いできるお手頃価格の居酒屋も人気。総じて考えれば、『同伴』そのものが身近になったのかもしれない。
一方で、閉店後に店の娘を連れ出す、いわゆる『アフター』では、遅くまで営業しているガールズバーが人気だ。こちらも1杯500円からというドリンクメニューがフトコロに優しい。キャバクラとガールズバーを系列店としてやっているところなどは、キャバクラ閉店後、『アフター』の集団がボックスを埋めている。カウンター内での接客が"原則"のガールズバーでは、通常、ボックスは外野席なのだが、この時ばかりは、まるでキャバクラ店のような様相を見せる。
より身近になっている『同伴』や『アフター』。とはいえ、「同伴はありがたいけど、フランチャイズでごちそうになるのはチョット・・・」という声も。せっかくの機会だからこそ、少し気を利かせてほしいというのが女心。たしかに美味しいのかもしれないが、あえて選んで行くことはないだろう。
「最近、ママと折り合いが悪い」と言っていた娘から「早く帰りたいから、『アフター』をお願い」と頼まれた。見れば、良い感じで酔ったママの目が座っていた。『アフター』を装って、少し早めに混沌としてきた店を脱出しようというわけである。もっとも、その日に入れたはずのボトルが空になるほど飲んでいた小生にとっても"助け舟"となったが・・・。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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