29日に投開票が行なわれた山口県知事選は、政党の支持を受けていない無所属の新人候補が躍進し、既存政党に焦りを抱かせる結果となった。
事実上の一騎打ちと言われた同選挙は、次期衆院選の自民党公認候補予定者であった山本繁太郎氏(63)が、3月に立候補を表明。4期16年を務めた二井開成知事の後継を目指す山本氏は、自民・公明の推薦を得た。一方、政権与党である民主党は、独自候補の擁立ができず、6月になって同党衆議院比例中国ブロックの高邑勉氏(38)が立候補表明したものの、民主党は自主投票を決めて不戦敗となった。
そして6月中旬、3番目に立候補を表明したのが、元大阪市特別顧問・NPO法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏(53)である。飯田氏は民主党の推薦を蹴って、無所属で無党派層への浸透をはかった。告示(7月12日)まで約1カ月というタイミングである。今回初当選した山本氏は、衆院選山口2区の自民公認候補として2度出馬(08年補選・09年総選挙、どちらも落選)しており、政治活動に費やした時間で言えば雲泥の差がある。
「原子力ムラ」から離れ、脱原発・再生可能エネルギー振興の活動を続けてきた飯田氏は、全国的な知名度はあるが政治家としてはまったくの新人。しかも、上関原発の建設をめぐる脱原発の訴えは、山本氏の「凍結」をはじめ、他の候補も「反対」を主張。専門分野が主要な争点になることを回避されるかたちとなった。そのなかで、今回、山本氏を猛追するほどの支持を集めた飯田氏だが、そのコメントから「自民でも民主でもない、新しい選択肢」を望む有権者の声があったことがうかがえる。
戦後の歴代山口県知事のすべてが「自民党・元官僚」。現在の閉塞感、そして「夢と希望のない政治」(飯田氏)への不満が、今回、飯田氏を後押しした。また、知事選の前に飯田氏が大阪市特別顧問を務めていたこともあり、「国のいいなりから、国を動かす山口へ!」というスローガンは大阪維新の会と重なった。
「保守王国」と言われる山口県で、無所属といっても山本氏はまさしく「自民党の候補」であった。それゆえ、飯田氏の勢いに対して自民党に焦りが生じる。地元である安倍晋三元首相をはじめ、同党の主要な国会議員が山口を訪れて連日応援。石原伸晃幹事長自らが熱心に企業回りを行なっていたという。
山本氏の得票25万2,461票は、他の3人の候補の得票の合計27万8,222票(飯田氏は18万5,654票)を下回った。たらればだが、飯田氏以外の2人の候補が山本氏の支持基盤に重なっていないことを考えると、"本当の一騎打ち"であったならば、かなりの接戦になっていたかもしれない。
今回の結果は、次期総選挙の解散時期にも影響をおよぼす。"第3の選択肢"となる新興政党・地域政党が準備不足のうちに、逃げ切りを図りたい自民・公明。党内の分裂が続く民主党は、"抜けた穴"の候補擁立が難航していることもあり、現状での解散をなるべく避けたいところだが、山口県知事選を受けて、自・公が押し切る可能性は高まった。
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