先日、森林組合などの招きで、とある県に講演に出かけた。しかしぼくの主張が多少問題になった。県は木材を早く安く市場に出すために、高温乾燥を推進している。しかし高温乾燥させると木材のなかはスカスカになりやすく、芳香成分も流れ出してしまってシロアリに食べられやすくなる。また県は、同じ動機から集成材を推進している。集成材は接着剤に頼ることから、健康面や耐久性に疑問が出されている。その両者にぼくが賛成していないのだ。やんわりとその話をしないでほしいとクギをさされた。
体良く触れないこともできたが、現地の素晴らしい宮大工さんにお会いして気が変わった。その宮大工さんに相談すると、「ぼくはずっと反対してますよ」と笑顔で言うのだ。それは木材の命をないがしろにしない姿勢からだ。ぼくは結局、自分の主張をした。ただし根拠は別のものにした。「安売り競争」の行き着くところは「困窮」だからだ。
すでに木材市場は飽和状態になっていて、安い木材を供給するとさらに値崩れを起こす状態にある。経営の厳しい木材業界がさらに安い木材を多量に売って儲けようとすれば、経費はかかるのに収益は減っていってしまう。通常の「マーケットイン」という言葉は、ユーザー目線で供給することを意味する。しかしその競争は低価格化だけではない。より高度な要求に応える必要もある。それは「利便性」だったり「社会性」だったりする。高くてもユーザーが求めるものを届けるのも「マーケットイン」なのだ。もし低価格だけの競争なら、誰もコンビニを利用しないだろう。ぼくはこれを「発展型マーケットイン」と呼んでいる。要は安売りではなく、価値の高さで勝負すべきなのだ。講演を終えた後、県の方に「どうでしたか」と聞いてみた。県の方は「目論見とは違いましたが、とても勉強になりました」と言ってくれた。新たな模索につながるといいのだが。
<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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