福岡県飯塚市（旧筑穂町）の産業廃棄物処分場（安定型）をめぐって、福岡県に「環境生活保全上の支障の除去等」の措置命令を出すように義務付けた判決が確定し、小川洋福岡県知事は今年度中に措置命令を出す意向を表明した。司法によって厳しく断罪された福岡県の産業廃棄物行政は、住民の生命・健康を守る方向に転換するのか。悪臭と汚水流出が発覚し地元住民らが環境、健康に被害が起きていると問題を提起して間もなく丸11年を迎える。
＜11年前の夏、真っ黒な水と悪臭が...＞
問題が発覚したのは、2001年８月13日のことだった。処分場は、飯塚市（旧筑穂町）内住にあり、運営業者は（株）藤宏産業（02年12月に承継）である。
処分場から約100メートルのところに住む梶原啓行さん（71）＝義務付け訴訟原告団長＝は、自宅裏を流れる小川が真っ黒く泡だった水で覆われているのに気づいた。卵が腐ったような悪臭がする。たどっていくと、処分場があった。
翌日には、嘉穂保健所、筑穂町（当時）などが場内立ち入りした。それ以降これまで行政によって大気汚染や水質の環境調査などが繰り返され、基準値を超える有害物質が検出され、掘削調査では「安定５品目」以外の廃棄物が確認された。
この産廃処分場から地下にしみこむ汚水は、周辺の井戸水を汚染するだけでなく、飯塚市民の飲用水の取水口のある内住川に流れ込む。内住川の下流は、穂波川をへて、さらに遠賀川に合流する。流域80万人に影響がおよぶおそれがある。
しかし、福岡県は行政指導などを行なうものの、「改善命令を出してその履行を確認するなどして基準に適合しない廃棄物はすでに撤去されている」という主張を繰り返してきた。現在、処分場は操業停止しているが、これも住民らが操業停止の仮処分を申し立て、福岡地裁飯塚支部が04年９月に認めたためである。
＜聞き耳を持たなかった福岡県＞
「県がもっと早く法律に則ってちきんとやれば、裁判することもなかった。私たちもつらい思いをしないで済んだ」。梶原さんは振り返る。県庁や裁判所に足を運んだのは50回以上におよぶという。
「いなかの良さは、水と空気と自然。それがなければ価値がなくなる」と語る生活が一変した。01年～02年ごろは、悪臭のため窓を開けることもできず、周辺の保育所が一時閉鎖されるほどだった。飲み水として井戸水を使っていたが、有害物質の汚染が懸念され、今も知人からもらった水をポリタンクに入れて使っている。
＜避けられない行政代執行＞
（株）藤宏産業は実質廃業状態で、措置命令は履行されない可能性が高い。高裁判決は、原告らの損害を回避するため措置命令を出すことによって行政代執行が可能になると判断しており、県は代執行せざるを得ないとみられる。
福岡県は、措置命令の内容を決めるために、「調査専門委員会」を設置し、処分場内の地下水や廃棄物のボーリング調査などを行ない、「生活環境保全上の支障のおそれ」を特定するとしている。実際のボーリング作業などが始まるのは夏を越してからとみられるが、県の検討に任せていては住民たちの要求とかけ離れた内容になりかねないと、早くも危惧が広がっている。
「私たちの要求は、廃棄物の全部撤去だ。県のペースにはさせない。私たちの言うことを聞かさないといけない」。梶原さんは気を引き締める。「今からが本当のたたかいばい」。
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