ある知事選に友人が立候補したことから、合間を縫って応援に出かけることになった。友人はエネルギー問題に詳しく、そのため単なる「エネルギー候補」と目されている。しかし彼はエネルギーだけでなく、多方面に多彩な知識と人脈を持っている。それを知らせることで、単なるエネルギー問題の人ではないと伝えたかったのだ。
ぼくが「発展型マーケットイン」の話をすると、彼は面白い事例を紹介してくれた。ドイツと日本の「就業者1人当たりの輸出額」の差だ。日本の輸出額はドイツの3分の1程度しかないのだ。もちろん日本は世界に稀に見る輸出依存度が低い国で、ドイツほど輸出に依存していない。しかしこのことは、輸出品もまた「安売り競争」に傾いているようにも見える。安売り競争を進めるなら、日本は工作機械をよく輸出する国なのだから、結局のところ中国の人件費と競争せざるを得なくなる。
友人はこんな例も出した。「県内にある造り酒屋は一升5,000円も1万円もする値段で販売している。しかもとても旨い酒だ。一方でぼくの身内が兵庫で造り酒屋をしていたが、桶ごと大手酒造メーカーに売って(「桶買い」という)一升百円にしかなっていなかった。結局、最近倒産してしまった。人々がドイツ型の生産に向かうのか、中国型の生産に向かうのか、それによっては「どん底への競争」を強いられることになる。人々が誇りと自信を持って生産できる高付加価値型の生産に進むべきだし、ここにはそれを可能にする『人、資源、文化』がそろっているのではないか」と。
ここからが知恵の勝負だ。「良いものを作る」のではなく、「売れているものを良いもの」にしよう。メディアに頼らず、インターネットやSNSを駆使して鑑定眼のある人に買ってもらおう。「安いものを大量に売る」世界から、「本当に価値あるものを限定的に売る」世界に。それこそが豊かで、ゆとりある未来へのパスポートなのではないだろうか。
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<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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