「義務付け訴訟」原告団長で、地元住民でつくる「飯塚市筑穂自然環境対策住民会議」代表の梶原啓行さん(71)が語るように、飯塚市の産廃処分場問題は今からが大きな山場だ。
住民らの願いは、生活環境や健康への被害を取り除き、今後の発生を防止することであり、そのために廃棄物の全量撤去を求めているからだ。
<住民の意見を聞いて手続きすすめるべき>
福岡県がどのような内容の措置命令を出すのか。
原告住民側は、7月20日付内容証明郵便で催告書を福岡県知事あてに送り、7月23日には、知事公室を訪れて、職員に直接手渡して、判決で確定した義務の履行を迫った。
権利義務関係でみれば、福岡県は原告に対し措置命令を命じる義務を負ったのであり、権利があるのは原告である。原告は催告書で、廃棄物の全量撤去を内容とする措置命令を業者に対し7月末日までに命じるように求めた。期限内に全量撤去の措置命令を出すのができないなら、原告住民らと協議するように要求している。
催告によって履行期限が切られたため、福岡県は8月1日から債務不履行状態に陥ったことになる。県が誠実な対応をしなかった場合には、原告側は強制執行(間接強制)などの法的手続きを取ることも視野に入れている。
原告住民側の意見を聞かずに措置命令の中身を独断で決定したのでは、「法的義務を履行したことにはならない」(催告書)。義務を負った者が、権利者と協議を行なわずに、履行内容を一方的に決めることはおよそ考えられない。
<2度と繰り返さないために>
高裁判決は「同処分場では基準に適合しない産業廃棄物処分が行なわれたことにより、汚染された地下水が周辺住民の生命、健康に損害を生ずる恐れがある」と認め、福岡県に対し「生活環境の保全上の支障の除去または発生の防止のために必要な措置」を講じるように命じていた。
義務付け訴訟弁護団長の馬奈木昭雄弁護士は「このような事態を2度と繰り返さないよう、これまでの福岡県の廃棄物行政のあり方を見直すべきだ」と指摘する。
住民は、高裁判決後ただちに措置命令を出すことに着手するように福岡県に求めていたが、県は上告し判決が確定するまで裁判中を理由に拒み続けた。
<迅速な行政処分をなぜ怠ったのか>
そもそも、廃棄物処理法の度重なる改正が行なわれたのは、迅速・的確な行政処分を行なわず行政指導をいたずらに繰り返し悪質な操業を許し、大規模な不法投棄を発生させ国民の不信を招いたため、断固とした姿勢を示して行政処分を積極的・厳正に行なうことに主眼の1つがあった。環境省の通達(2005年8月12日)も「違反行為を把握した場合には、生活環境の保全上の支障の発生またはその拡大を防止するため速やかに行政処分を行なうこと」などを都道府県などに求めていた。
通達が出された05年は、ちょうど「義務付け訴訟」が提訴された年である。また、その前年には仮処分によって操業が停止され、それ以降新たな廃棄物が持ち込まれていないわけだから、福岡県は、どんなに遅くともその時点で措置命令を出す義務があったことになる。
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