先日、「受験を考える保護者の会」なる市民団体(?)から、1通の封書が弊社に寄せられた。そのなかには、ある学習塾の不正に関して独自に調べたとされる資料と、調査の意図が記された告発文書が同封されていた。同団体はいったい何が目的で特定の塾を取り上げ、このような資料を関係各所にばら撒き、ネットも使い批判を展開しているのか。謎は深まるばかりだ。
<過去の合格者水増し事例>
そもそも、JAROが特定の塾に対して水増しを指摘し、それによって当事者が数字を改めるなどという事例が存在し得るのか。合格者水増しについては、過去に前例がある。最近では、(株)市進ホールディングス(千葉県市川市)、子会社の(株)市進ウイングネット(東京都文京区)、業務提携先の(株)ウィザス(大阪市中央区)の3社が昨年4月、10年度大学入試試験合格実績に関して景品表示法に違反しているとして措置命令を受けた。このとき調査を実施したのは消費者庁と公正取引委員会の合同チームで、措置命令を下したのは消費者庁である。
消費者庁によれば、同グループは10年5月に配布したパンフレットで、市進教育グループ・市進ウイングネット主要大学合格実績として、東京大学43名、早稲田大学211名などと掲載していた。しかし、実は「第一ゼミナール」などウィザスが運営する塾や、映像授業の利用加盟校約530校などグループ外の合格者数を合算していたことが判明。実際に同グループの塾や予備校の受講生で東大に合格したのは15人、早稲田大で166人など、他大学に関しても数字が食い違っていた。
さかのぼって、学習塾に対して公正取引委員会が排除命令をした全国初の例が、福岡にある。07年1月26日、当時福岡県内で進学塾「ena‐TOPn」(エナトップエヌ)を展開していた(株)受験Vアカデミー(福岡市中央区)に対し、広告掲載の高校合格実績が消費者に誤解を与えるとして、景品表示法違反(優良誤認)の疑いで排除命令が出された。同社は、持株会社の(株)アネムホールディングス(福岡市中央区、肥川正嗣社長)を中心に、九州で個別指導塾「明光義塾」や集団指導塾「EDINA」(エディナ)など一大グループを形成する企業集団の一角である。
公正取引委員会によれば、同社は05年12月に配布した折り込みチラシに、修猷館、筑紫丘、福岡トップ校95名と記載したが、3校の実際の合格者は52名だったという。また、筑紫、春日など福岡県内の7高校の校名を挙げて上位校387名と記載した分も、7校の実際の合格者は167名だったとされている。こうした点に対し同社は当時、「広告の確認ミスで故意ではなかった。結果として誤解を招き、深くおわびする」と謝罪の意を表している。
今回、告発文書が指摘するのもこうした流れを受けてのことだろうが、いずれも命令主体は消費者庁か公正取引委員会で、JAROが改善指示を直接下すとは考えにくい。
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