<「5品目」以外の廃棄物 存在自体が問題>
問題となった飯塚市の産廃処分場は「安定型最終処分場」である。
安定型最終処分場に埋め立てられる廃棄物は、安定5品目(廃プラスチック類・金属・ガラス陶磁器・ゴム・がれき)に限られる。「安定型」というのは、いわば、無害な廃棄物を捨てるための処分場であり、「管理型」のように、埋立地から出る浸出液による地下水などの汚染を防止するゴムシートなどの「しゃ水工」などは設けられていない。
違法廃棄物に有害物質が含まれれば、溶け出した有害物質はなんの防護措置もなく地下水に浸透していく。「安定5品目以外の廃棄物」があること自体が問題であり、住民の健康に直結する。
原告住民らが「廃棄物の全量撤去」を求めているのもそのためだ。
「住民の生命、健康の保護」を第一に考えれば、措置命令としては、少なくとも「安定5品目以外の撤去」を命じるのが妥当だ。すでに大量に混入した5品目以外の廃棄物を分別することは不可能に近いので、結果として全量を撤去せざるを得なくなるが、廃棄物処理法や通達、確定した福岡高裁判決の趣旨にかなっている。
<試される福岡県の"本気度">
福岡県が「生活環境保全上の支障の状況や改善方策の内容」を調査検討するため設置した調査専門委員会は7月27日、初会合を開いた。調査して、地下水にどんな影響があるのか、処分場にどんな廃棄物が捨てられているのか把握するという。
次回会合は、調査結果が出た後の9月か10月の予定で、結果の分析や改善方法などの
検討に入る。
小川知事は7月31日の記者会見で今年度中には措置命令を出す意向を明らかにしたが、次回会合から約半年間も検討に時間がかかることになる。一体なぜだろう。安定5品目以外の撤去を命じるのであれば、「安定5品目」以外の廃棄物や有害物質の存在を確認しさえすれば、その後半年も改善方策の検討時間がかかるとは思えない。
業者が実質廃業しているため、行政代執行せざるを得ないのを見越し、多額の税金がかかるのを恐れて、浸透水の処理など技術的対策で幕引きを図ろうとしているとすれば、本末転倒だ。福岡県がどのような措置命令を出すのか、産業廃棄物行政を見直す"本気度"が試される。
<含有試験での分析が不可欠>
まだ実際の調査が始まっていない段階だが、問題があるのは、廃棄物などのボーリング調査の分析方法だ。
調査専門委員会では分析方法がまだ議論されていないが、事務局資料には、「溶出試験」と明記されている。
原告代理人の紫藤拓也弁護士は意見陳述で、「溶出試験で簡単に済ますべきではない」として、福岡高裁が鑑定調査で採用した含有試験とするように求めた。
「溶出試験」は、試料を水などに混ぜて、溶け出した有害物質の量を調べる。試料のなかに有害物質を含んでいても、短時間で水に溶け出さなければいい場合の分析には適している。安定型処分場のように酸性雨によって有害物質が溶け出す実態とはかけ離れている。これに対し、「含有試験」は、塩酸を薄めた溶媒に試料を溶かして含有量を調べる。含有していること自体が問題な場合にふさわしい分析方法だ。
廃棄物のなかに有害物質が含まれていれば、現在は地下水などに溶け出して「生活環境上の支障」がない場合でも、いずれは溶け出して、将来支障が発生するのは明らかだ。
<将来発生する被害の防止も必要>
福岡高裁の判決文や廃棄物処理法の条文と、調査専門委員会の設置要綱とが微妙に違っていることも気になる。
調査専門委員会の設置要綱第1条は、「処分場を原因とする生活環境保全上の支障の状況や改善方策の内容を調査・検討すること」を目的としている。また所掌事項として、「支障のおそれの特定」「支障のおそれを除去するための改善方策」(第2条)をあげている。
しかし、高裁判決は、「生活環境の保全上の支障の除去または発生の防止のために必要な措置」を講じるように命じている。県が法的義務を負った内容は、現在起きている「支障の除去」だけでなく、将来発生する被害の防止まで含んでいる。また、廃棄物処理法も、措置命令について「その支障の除去または発生の防止のために必要な措置」としている。
県監視指導課は、取材に対し、「条文の『支障が生じ、または生ずるおそれがあると認められるとき』をまとめて、『支障のおそれ』としているもの」と述べ、「(支障)発生の防止のために必要な措置」を含んでいるとの見解を説明した。
本当に将来発生する被害の防止まで含むのかどうかは、調査結果の分析や改善方策の検討が進めば、いずれ明らかになる。
原告住民らは、福岡県に対し必要な意見を言い法的義務の履行となるように監視し、県の検討結果を見ながら、強制執行も辞さない構えだ。
住民らは、8月8日には飯塚市内で勝訴確定の報告集会を開き、「廃棄物の全量撤去」をめざし活動を強化する。
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