その後、鉛電池の改良版として、リチウムイオン電池が開発された。当初は携帯電話やパソコンに使われるのが主流であったが、数年前から電気自動車にも使われるようになった。2020年には10兆円を超えると試算される新たな電池市場を想定し、内外の企業が開発に凌ぎを削っている。リチウムイオン電池・正極材の世界的トップ企業も日本に進出してきた。たしかに、リチウムイオン電池は従来の鉛電池と比べれば、性能が30パーセント近くも向上していた。とはいえ、電気自動車に限って言えば、走行距離がそれまでの100キロから130キロに伸びただけ。要は、実用化には程遠い代物でしかなかった。
加えて、リチウムイオン電池に独特の問題も明らかになった。第一に、高温になるため電気自動車が頻繁に火災に見舞われ、爆発事故も相次いだこと。たとえば、中国の電気自動車最大手、BYD(ビルド・ユア・ドリームズ)は10年と11年の間、走行中に20件の火災が発生している。
去る5月にも中国でBYD製の電気自動車タクシーが追突事故に巻き込まれ、運転手と乗客が死亡した。BYDの責任者曰く「事故の衝撃で電池の液漏れが起き、火災につながった可能性が高い」。天才投資家と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も出資しているBYDだが、この事故を受け同社の株価は急落したばかり。トヨタのプリウスでも、爆発事故が起こり、従業員2名が死亡したという。リチウムイオン電池を使った携帯やパソコンでも似たような爆発事故が報告されているほどだ。
2つ目の問題は、リチウムイオン電池はレアメタルを使用するため、高価なものになってしまう点である。しかも、材料の調達が常に問題となっている。レアメタルが偏在しているためである。3つ目の問題は、出力密度が低いため、電池の容量が肥大化せざるを得ず、自動車と同じ面積を占めることになってしまう。そのため、荷物スペースが極端に少なく、実用向けとはとても言い難いものであった。
アメリカの電気自動車メーカー、テスラが開発した電気自動車の場合は単2電池を何と7万個も積まなければならないものである。こうした制約条件により、リチウムイオン電池を使った電気自動車は、残念ながら普及するに至らなかった。この分野では世界的企業として定評のあるユミコア(本社ベルギー)のゲレンス社長曰く「リチウムイオン電池の課題は承知している。電池メーカーとともに、そうした課題を克服していく」。同社は日本のみならず、韓国や中国にも設備を増強である。
このような海外の開発状況を横目でにらみながら、日本政府は新たな蓄電池の開発に資金援助を行なう決定を下した。その結果、12年7月より、この支援制度がスタートすることに。象徴的なイベントとして、野田総理自らがオバマ大統領との日米首脳会談で、電気自動車用の蓄電池を含む、新しいエネルギー政策の包括的な協定を結ぶことになった。
そうしたなかで、新型の蓄電池として脚光を集めているのが、空気中の炭素を使った空気電池と砂を材料としたシリコン電池である。ともにリチウムイオン電池の弱点を克服し、エネルギー密度を飛躍的に向上させるものとして期待が寄せられている。とはいえ、現状では、シリコン電池が開発レースでは一歩先んじている模様。
というのも、わが国は北アフリカのサハラ砂漠で太陽光発電を行ない、それを世界各地に送電することで世界的なエネルギー問題を解決しようとするプロジェクトを進めているが、ここにはシリコン電池が欠かせない役割を担っているからだ。具体的には、砂漠の砂に含まれるシリカ(二酸化ケイ素)から太陽光パネルの原料となるシリコンを生産する。そのためにサハラ砂漠にソーラーブリーダー(シリコン工場および太陽光発電所)を建設する。その上で、精製された電力を使い、さらにソーラーブリーダーを増殖させる。
そうして発電される大量の電力を送電ロスの少ない高温超電導送電システムを使い、世界中に供給するという計画である。東京大学の鯉沼秀臣教授が中心となり、アルジェリアのオラン工科大学などと共同して研究開発が進んでいる。我が国は援助外交の一端として、国際協力機構(JICA)が実施するODAの枠内で支援体制を組むことを決定した。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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