中国は巨大だ。人口13億人、面積は日本の26倍、国内に56の民族を抱えている。今、様々な「中国論」の書物が日本で多数発刊されている。中国を象に譬えれば、足だけの話であったり、尻尾だけの話であったり、そのなかには鼻の穴だけの話さえある。意図的に誘導している本もあるが、そうでなくても全体像を捉えることは困難である。
著者は、北京大学、香港中文大学に留学経験のある、元日刊工業新聞記者のフリージャーナリストである。2009年から約2年間をかけて、主にいわゆる「80后」世代の留学生、ビジネスマンをインタビューしてまとめたのが本著である。その人数は100人、日本を中心に、北京、上海まで取材に行き生声を集めている。本書は中国論ではなく、中国人の若者から見た「日本論」、「日本人論」である。
冒頭の「自らの目で見たもので真摯に判断する!」は読者に向けた筆者のエールではない。今回著者がインタビューした100人のエリートが「日本論」、「日本人論」を語る際の"基本"である。学力、教養レベルの高い人間が物事を判断する基本は世界共通なのである。
ここでは、上記のことを前提にしながら、生の声を拾ってみる。
・中国が失った「儒教」の教えを日本から学んでいる。昔の中国人の持っていた仁、義、礼、智、信などの孔子の教えが日本国の隅々まで宿っている。
・日本のACG(アニメ、コミック、ゲーム)が好きだ。中国でオタクは、「宅男」、「宅女」「宅人」と呼ぶが決して悪いイメージはない。
・中国にとって日本は、過去に屈辱の経験をもたらした存在であるのと同時に、経済発展の最も身近なモデルである。
・日本の大学生が本分である勉学を重視していないのは変である。中国では大学時代の成績は一生ついてまわる。
・GDP第2位は「バカ神話」である。1人当たりのGDPでみれば、中国は日本の足元にもおよばない。
・企業が一から社員教育してくれることに感動する。中国では、やりたければ勝手に覚えろという感じに近い。
・日本企業で働くためには、自分のdignity(尊厳、価値)を捨てないといけない。そうしないと、村社会の日本企業には溶け込めない。
・日本人は、進学でも、就職でも、自分中心でなく「世間のなかの私」という存在を常に気にしている。
日本と中国は地理的に"一衣帯水"の関係にある現実は未来永劫変わることはない。国家ではなく、一民間人としては、お互いに尊重して付き合っていきたいものだ。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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