砂漠の砂に含まれるシリコン成分を高純度化する実験も始まった。アルジェリアとすれば、将来的にシリコンの精製技術や太陽光電池パネルの生産技術を導入し、新たな成長産業に結び付けたいと願っているわけだ。本年12月に東京で開催される予定の「第3回・日本アラブ経済フォーラム」でも、このシリコンに着目したソーラーブリーダー計画が議論されるはず。アルジェリアに限らず、サウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦(UAE)でも新成長産業の牽引車としてのシリコンに関心が寄せられるようになってきた。そこには理由がある。
実は、シリコン電池はリチウムイオン電池が抱えていた問題点を一挙に解決することが可能と期待されている。この地球上にほぼ無尽蔵に存在するシリコンを蓄電池の材料として商品化できるようになれば、電気自動車の普及は一気に進むことになるだろう。北アフリカの砂漠地帯を抱える諸国の間では、特にシリコンを活用した産業への期待が膨らむ。
なぜなら、シリコン電池の場合には、第一に出力密度が高いため、1回の充電で、最低でも400キロ、場合によっては500キロの走行が可能となるからだ。しかも、同じ理由で蓄電池の軽量化とコンパクト化が可能になる。現在のリチウムイオン電池と比べても、10分の1のサイズに収まる。加えて、充放電の回数による性能劣化も少なく、リチウムイオン電池と比較し、100倍以上の耐久性が得られる。ということは、これまでのリチウムイオン電池の寿命3年と比べ、30年は持つという計算になる。
さらに言えば、リチウムイオン電池の問題点の1つである発熱性に関して、シリコン電池の場合には、発熱がゼロであるため、火災のリスクは一切ない。また利用者にとって朗報といえるのだが、充電時間が遥かに短くて済むというメリットがある。家庭のコンセントを使えば、1時間でフル充電が可能となる。ちなみにリチウムイオン電池の場合には最低でも3時間はかかる。一方、シリコン電池は急速充電を行なえば、6分で充電が完了する。
そして何と言っても、レアメタルを使用していないどころか、地球上で最も広範に存在する砂から材料を抽出できるため、材料調達の制約が無いときている。当然のことながら、コストを極めて低く抑えることができる。そして環境汚染はほとんどゼロと言っても過言ではない。
こうした理想的なシリコン蓄電池の開発に関しては、現在、日本の研究者が世界をリードし、実用化へ向けて最先端を走っている。このシリコン電池が市場に投入されれば、国際社会におけるわが国の存在感は一挙に高まるに違いない。なぜなら応用範囲が極めて広いからだ。
具体的に言えば、何日間でも充電のいらないスマートフォンや24時間連続駆動のノートパソコンをはじめ、エンジンのいらない蓄電池で飛ぶヘリコプター、電車の効率的運航を実現する蓄電池、風力発電や水力発電用の循環型蓄電池など、枚挙の暇がないほどである。そして一般家庭において太陽光発電による売電とリチウム電池の蓄電を組み合わせれば、電気料金ゼロどころか、売電による利益をもたらす住宅が誕生する。
幸い、日本のシリコン技術をベースにした電気自動車への応用実験が間もなく始まろうとしている。是非とも日本発の新たな環境順応型エネルギー技術として世界標準化を目指したいものだ。自動車産業は言うにおよばず、住宅産業や電気メーカーなど、われわれの日常生活を飛躍的に省エネ化させることにつながるシリコン蓄電池。"創エネ、蓄エネ、省エネ"を標榜する「科学技術立国・日本」にとって、官民挙げて開発に取り組むに相応しい分野といえよう。
≪ (中) |
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
※記事へのご意見はこちら