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大さんのシニア・リポート~第3回 高齢者を地域で支えるというけれど(前)
社会
2012年8月20日 13:31

 街も建物も、そこに住む住民も高齢化した。『団地が死んでいく』(平凡社新書)を上梓して、その現状を報告した。あれから4年、その状況はますます逼迫し、各地で孤独死や老々介護による様々な事件が多発している。なかには「餓死者」を出す自治体もある。恥ずかしい限りである。その担当者の「このような惨事を二度と出さないように云々」という言葉が白々しく響く。同市は数年前にも餓死者を出し、同じコメントを出している。懲りない行政、懲りない面々。でも、解決策はある。

 今年の冬、わたしが住む団地でひとりの高齢住民が、搬送された救急病院で亡くなった。「Kさんが運ばれたらしい。病院、知らない?」という電話が入ったことではじめてそのことが事実になった。
 わたしはあらゆるネットワークを駆使して追跡した。結果、H病院ということが判明した。すぐ仲間とH病院に駆けつけた。しかし、受付の「入院した事実も、病状も教えられません」に唖然とする。「なぜ教えられないのか」という問いかけにも、「規則ですから」の一点張り。その後、Kさんが亡くなったことも知らずに、H病院に足を運びつづけた。

 個人情報保護法という法律の下では、個人の情報を開示できないということなのだろう。この泣く子も黙る「印籠」をかざされたら、誰だって「恐れ入りました」と土下座をせざるを得ない。公的な機関にとって、これは「最強の兵器」だ。「問題が起きたら誰が責任を取るの」という一点がある限り、この最強の兵器は行政の金庫のなかで静かに眠りつづけ、われわれの前に顔を見せることはない。

0820_tusin.jpg Kさんは、公的な機関により事務的に処理されることになった。その結果、ある日、忽然と我々住民の前から姿を消すことになったのである。まるで現代の「神かくし」である。長い時間をかけて培われてきた「絆(結)」が消滅した。正確に言えば、消滅させられたのである。直前までKさんと親しく話をしていた住民にとって、こんな理不尽なことが許されるはずがない。わたしはこの忸怩たる思いを、久しぶりに発行した『結通信』に、告発の意味を込めて書いた。『結通信』というのは、わたしが住む団地内で主宰する「幸福亭」(高齢住民の居場所、生活情報提供、仲間作り、見まもり)の機関紙である。

 団地の住民は地方出の人たちが圧倒的に多い。とくにUR(旧公団)の住民にとって、今から40年以上前、団地への入居は憧れの的であった。「あれから40年」、建物も住民も老いた。そこに孤独死が顔を見せる。実はこれは公団が描いた想像図ではなかったのだ。
 昭和30年、日本住宅公団が誕生する。それまでの公的な住宅は「行政の枠を越えてはならない」という縛りがあったため、建設される集合住宅(団地)の数も限られていた。戦後、都市部の再興は急務で、そのための労働力確保は最重要課題のひとつとなり、地方から流入する労働者の住宅建設は待ったなしの状態にあった。

 公団法の成立で、行政のエリアを越えた大規模集合住宅の建設が可能になった。東の多摩ニュータウン、西の千里ニュータウンはその代表的な団地である。ちなみに、多摩ニュータウンの場合、多摩市を中心に、稲城市、町田市、八王子市にまたがった多摩丘陵に作られた巨大ニュータウンである。

 公団の目論見はすぐに狂う。当初、日本住宅公団はイギリスの都市計画家E・ハワードの提唱した「田園都市構想」を模した。これは大都市周辺にグリーンベルトを設け、その外側に住居と職場を一体化させたニュータウンを建設して都市部への人口流入を阻止、交通渋滞による時間的損失、長距離通勤の弊害の解消、合わせて居住環境を向上させようという理念の上に成り立っていた。

(つづく)
【大山 眞人】

≪ (2) | (後) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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