<長閑な田舎暮らし>
C氏は今年、65歳だ。私立大学理系を卒業して大手ゼネコンに入社した。水の特殊技術者でああったから重宝されていた。35歳で故郷に帰り食品工場の水処理管理責任者としてのポストを得た。妻も同郷であったから便利が良かった。子供も3人育て上げた。福岡の私立大学に子供を送り出していた時が一番、苦しかったそうだ。「ただ夫婦の両親の面倒が見られたという親孝行ができたことが嬉しい」とC氏は帰郷ことを悔やまない。
41歳で土地90坪建坪45坪の自宅も手にした。会社は59歳で辞めたが、今でも水処理に関する相談があり週2回は仕事に精を出している。この収入の23万と年金がある。彼の妻は華道の指南役で別収入があるのだ。C氏は自分の実父の介護(実家で生活はしている)をしつつ釣りに週2回、ゴルフに週1回行っている。「都会に残っていたらこんな優雅な老後生活を送ることは不可能であった」と語る。「親父も90歳過ぎるまで存命している。しかし、自分に置き換えて考えてみるとゾッとする。90歳まで25年の暮らしを想像すると《永いなーー》と溜息をつきたくなる」とも証言する。
<老人クラブで個性を磨く>
75歳を過ぎたD氏は「老人たちが日本国家を潰す」と警告を発する。現在、24時間自由の身である。妻女は現役だ。週1日の老人会(クラブ)には欠かさず出席して世相を窺う。「この3年間で老人たちの話題が様変わりした。政治談議が全く皆無になった」と変化を指摘する。聞くところによると3年前までは一番の話題は政治種であった。侃々諤々の論争が必ず展開されていた。それが一切、ない。D氏は「老人たちは政治家たちに不信感を抱いてしまった証なのだ。全く関心を失ってしまっている。今まで老人たちは律義に投票に行っていた。この年代層の投票率は高かった。恐らく次の解散総選挙には投票しないだろう。それが現政治体制への異議申し立てになる」と分析・予想する。
D氏は年の割には思考が柔らかい。じゃー政治談議に関心がなければ何が話題になるのか?(1)自分の健康のこと(2)自分の趣味のことのふたつだそうだ。(1)の健康で自慢話が病院には必ず週1で担当医師のところへ顔見に行くそうだ。そこで沢山の薬袋を貰ってくるが大半は捨てるそうだ。同氏の義憤談。「私の血圧は180と高いが、極力、病院に行かずに自力治療に励んでいる。医師に言われるままに病院通いをしていたならば医療費を膨大に嵩んでしまい財政を破綻させる」。
老人クラブの補助金は福岡市から支給される。1時間半ほど酒を交わして私的関心事の話に花がひらく。次に1時間半ほどのカラオケ大会が繰り返されてお開きになる。この世界には利害もなく、身分の格差もなく、平等の関係が保たれている。そしてカラオケなど自分の趣味に磨きをかけて個性を輝かされるのである。
D氏が付け加える。「老人たちは皆、物質的に豊かだな。旅行も月に1回は行っているようだ。バスツアーとか温泉巡りとかいろいろな話が耳に入ってくる。まーしかし、北欧みたいな高自己負担もせずにこれだけの老後年金、医療保障を受けられる水準は世界一ではないか!!まるで現世に【天国】が下りてきた感じだ。だがこの幸せな制度も近未来に破綻するだろう。誰もが感謝することを忘れている」。
この【天国下暮らし】層は400万所帯800万人内外の存在があるとみる。【天国上】層を加えると1,200万人内外、実に日本人口の1割に当たる老人層が現世で【天国暮らし】を行っているのである。誠に驚嘆すべきことだ。
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