<待ち受ける社会の姿は>
日本経済がゼロ成長に入ってからもう20年、このように社会の構造が変化した。
これに伴い、サラリーマンの仕事環境も異なってきた。ひとことでいえば、中間層の仕事がなくなってきたのである。
中間層といっても漠然としているが、大企業の中堅幹部あるいは中堅企業の幹部などとして、付加価値の高い仕事をするサラリーマンといったところだろうか。管理職や監督職、それに製造業や建設業のエンジニアなどであろう。大学を卒業した者が10年ないし20年をかけて、そのようなポストに就くことが一般的にはイメージされる。
給料の高い管理・監督職の仕事が減ってきたのは、そのようなポストが減ったからだ。エンジニアの仕事が減ったのは製造業の海外移転や公共投資の急減が原因であろう。
その代わり増えてきたのは、新興企業の歩合制の営業や、小売業・飲食業のパートタイマー、介護職などだ。
このようにして古い産業から新しい産業に人々がシフトするとともに、日本人の給料は下がっていった。不況の中製造業や建設業の現場にとどまっている人は、居ながらにしてこれまた給料の激減を味わうことになった。
このようにして給料が下がり、悪ければ失業し、住宅ローンの支払、子供の教育費の支払にも事欠いている人が多いのが現実だろう。
このように、いっこうに明るい未来が見えてくる予兆はない。それでは、日本経済は、今後どのような途を進むのだろうか。将来を占うには、歴史に学ばねばならない。クローサーは、一国の経済の発展が、一般的に7つの段階を踏んでいくという経済発展段階説を唱えた。
1.未成熟な債務国
2.成熟した債務国
3.債務返済国
4.未成熟な債権国
5.成熟した債権国
6.債務取崩国
細かい点はともかく、大きな流れとしては、多くの国がこのような経過をたどるという。中には、1や2の段階から脱出することができないところもあるだろう。
ある国が経済発展に向けて走り始めるとき、最初は、国内産業が未発達のため、貿易収支は赤字になる。そして、国内に工場や鉄道を設置するための資金も外国から借りるので、資金収支は入超(借入過大)になる。投資収支も赤字である。
これが未成熟な債務国である。
これがある程度の発展段階に達すると、国内の工業が発展し、工業製品を輸出することで貿易収支が黒字となり、その黒字で、過去の海外からの借金を返済するようになる。
ここまでが成熟した債務国から債務返済国の段階である。
さらに進むと海外からの借金を返済し終えて、逆に外国に対して金を貸したり投資したりするようになるので、債権国となる。債権国となると海外から金利や配当などが入ってくる。また債権国となってもしばらくの間は、国内の製造業も活発なので、まだ貿易収支も黒字である。
これが未成熟な債権国である。
しかし、債権国になると通貨の価値も高まる。そうすると製造業が海外に逃げていくのでやがて貿易収支が赤字となる。しかし、金利や配当はさらに増えてくるので、経常収支としては黒字が続く。これが成熟した債権国の様相である。
さらに進むと、国内に製造業がほとんどいなくなり、生活水準は高いままなので貿易収支の赤字が拡大してくる。そのうち赤字は金利や投資配当の収入を食いつぶしてさらに拡大していく。そうなると、海外への貸付や投資を引き揚げて国内での生活に使うようになるので、対外債権がだんだん減っていく。これが債権取崩国である。
この経済発展段階説の中で、現在のわが国は未成熟な債権国に位置づけられる。
わが国が世界最大の債権国になり、1ドル80円の円高になっても、まだまだ素材や資本財の分野で製造業の優位が存在することと、国内の物価・賃金が20年間上がらないことで、貿易黒字を守り続けている。今の輸出品目は、値上げしても売上の減らない商品ばかりになってしまった。
それでも、震災による輸出のストップと原発停止の代替としての天然ガスの輸入によって、ついに貿易赤字に転落してしまった。
今は、工場が再開してきているので、前者の要因は解消に向かうだろうが、後者・天然ガスの輸入は簡単には減りそうにない。
こうして、わが国も貿易は赤字だが金利・配当収入で経常収支は黒字、という「成熟した債権国」の入口に立つようになった。
そして、今、足元で団塊世代がどんどん退職し、年金受給に入っている。
団塊世代の年金保険料も多くが国債に、一部は世界の債権と株式に投資されているが、これが順次取り崩されて高齢者の生活に充てられる、ということである。
このようなトレンドが止められなければ、2020年には、わが国も経常赤字となり対外資産を売却して食う、「債権取崩国」の段階に進むのではないか。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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