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「もう特ダネを"もらえない"じゃないか!」~「本当のこと」を伝えない日本の新聞 マーティン・ファクラー著(双葉新書)
書評・レビュー
2012年8月22日 07:00

 山一証券が経営破たんする2カ月前、著者がブルームバーグの記者時代、"山一証券がつぶれるのではないか"という記事を書いた。山一証券は、著者と同社の日本版記者に圧力をかけてきた。「もう特ダネをもらえないじゃないか」はその時、日本版記者が著者に言い放った言葉である。当時、同社では、日本版に共同通信、時事通信、日経新聞などの「記者クラブ」出身のベテラン記者を雇っていた。著者が呆れたのは、特ダネは"もらう"ものではなく、自分の足、知識、見識で勝ち取るものだからだ。

 著者は、現ニューヨーク・タイムズ東京支局長である。ブルームバーグ、AP通信社、ウォル・ストリート・ジャーナルで記者を経験、日本での取材経験は12年に及ぶ。本書は、外国人記者の目を通して3.11以降の日本の新聞報道、記者クラブ問題などについて書かれている。ウォル・ストリート・ジャーナルの記者経験のある著者が「日経新聞はクオリティペーパーではなく、単なる"企業掲示板"である」と言っているのは面白い。読者にも共感を覚える人が多いかも知れない。

 ジャーナリストとは、基本的に権力寄りであってはならない。権力の内側に仲間として加わるのではなく、権力と市民の間に立ちながら、当局を監視し不正をただしていくのが正しい姿だ。因みに「記者クラブkisha kurabu」は、ジャーナリストの本分である批判精神を持てないほど思考停止しているので、特異過ぎて翻訳語がない。

 政治家や経済人と懇意になり、どんなに早く情報を得てもそれを特ダネとは言わない。
 一番困るのは、"もらえる"特ダネのほとんどは、レベルが低いだけでなく、彼らの作為とか誘導が含まれているからである。日本は「ジャーナリスト=専門職」という意識を持つ記者は不要で、「ジャーナリスト=サラリーマン」であることが高く評価される不思議な社会だ。

 日本新聞協会賞とピューリッツァー賞には決定的な違いがある。アメリカでは速報性を求めるニュースよりも、誰も気づいていない社会問題を描いた調査記事やルポルタージュが評価される。「銀行が合併する」というニュースを他社より少しばかり先駆けて報道したことに、いったい何の価値があるのだ。それは日頃から財務省や銀行の担当者といかに仲良くしてきたかを証明するだけで、ジャーナリストとして意味ある仕事ではない。

 最後に、著者は「記者クラブメディア」の本当の被害者は日本の民主主義、日本の国民そのものであると結んでいる。福島県浪江町の人々は、正しい報道がされなかった為に、放射線量のより低いところではなく、何と最も高かった地域に避難させられている。これは"殺人"と同じである。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。



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