「延吉先生、辞めてください」。"神の手"を持つと称された延吉正清病院長に幹部職員が理事会で辞任要求を突きつけていた――。延吉氏の理事長・病院長退任表明で揺れる財団法人平成紫川会小倉記念病院。その後開かれた理事会の全容が判明した。病院関係者からの取材で再現する。
<清原弁護士の登場>
6月18日、小倉記念病院の講堂で定例理事会が開かれた。延吉氏が臨時職員会議で病院長退任を表明した同じ場所である。主な議題は、決算と人事。開催の予定は以前から予定されていたが、臨時職員会議が終わった後に延吉氏が日程などを了承し、招集されたものだ。
理事会冒頭から、延吉氏には同氏の顧問弁護士として清原雅彦弁護士(福岡県弁護士会所属)が付き添い、幕開けから波乱含みで始まった。決算審議が終わった後、議題はいよいよ人事に移った。
延吉氏が6月7日、8日と2回にわたって病院長退職・理事退任を願い出た件が取り上げられた。これには、申出の書面があり、延吉氏本人が署名捺印している。
ところが、延吉氏は「強制的だった」と弁明を始めた。
<職員から突き上げ>
そこに病院の幹部職員ら20~30人が詰め掛けて、口々に退任を迫ったと、病院関係者は証言する。
「延吉先生は私の目の前で署名しました」「理事長、病院長を退任していただきたい」「今日、お引きください」「先生が辞めると言われたでしょう」
医師たち病院幹部の発言は1時間におよんだと話す病院関係者もいる。
これに対し、清原弁護士が「辞めると言ったから辞めたということにはならない。辞めるには理事会の承認が必要」などと述べ、「今日は散会」「会議は終わりました」「退場します」と一方的に宣言。「逃げるんですか」の声を背に、延吉氏と清原弁護士は退席した。
<院長の"椅子"はもうない>
会社であれば、取締役会に、取締役でない執行役員や部長が乗り込んできて、代表取締役の辞任・解任を迫ったようなものだ。トップが社内の人心を掌握できなくなり、突き上げをくらった状態だ。そのうえ、議論をまとめられなくなると一方的に退席。これでは、法的に辞任しているかどうかにかかわらず、もはやトップとして職務を果たせる環境でなくなったことは間違いない。
すでに延吉氏は6月下旬以降、病院に姿を現さなくなり、院長室の鍵も取り替えられたという。もはや、小倉記念病院内に延吉氏の戻る"院長の椅子"はなくなったも同然と言える。
これまで延吉氏と病院関係者の話し合いとして紹介してきた場は、実は、この理事会のことである。
出席した病院関係者は「副院長らがこんなに大勢、辞めてくれという状態になっているのを知って、驚いた。理事会の途中で退席するなんて失礼だ。理事長の資格はない」と振り返る。
一方、一連の事態について、清原弁護士に取材を申し込むと、「守秘義務があるのでお答えできない」との回答だった。
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