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SNSI中田安彦レポート

ウォルフレンの日本知識人への警告を今こそ噛み締めるべきだ(4)
SNSI中田安彦レポート
2012年8月31日 13:00
2012年8月29日
SNSI(副島国家戦略研究所)研究員 中田 安彦

 要するにこの国の知的議論は成り立っていないのだ。この点について、ウォルフレンは日本社会について、1995年の前掲書(『日本の知識人へ』(窓社))で次のように述べている。

 日本には2つの有害な伝統があって、これが日本知識人の政治的未成熟を持続させる総体的な態度を形作っていることが分かるだろう。一つは、現行の日本の社会管理システムなら、どんなものでも支持するという強い伝統であり、もう一つは、現在の支配的状況について何かを仕出かそうとするのは子供じみている、という潜在的な反抗分子に悟らせる、これまた強力な伝統である。(同書12ページ)

 ウォルフレンは、後者の伝統について、「仕方がない」という言葉に象徴されていると指摘する。私も今の日本の政治の混迷は「どうしようもない」とあきらめている。しかし、95年の段階で動き始めていたら間に合ったかもしれない。仕方がない論者は潜在的な現在の政治状況を補強する意味で、規制権力にとって重要な政治勢力になっているということである。

earth2.jpg 知識人は言論や報道を通じて、官僚機構を監視したり、国民の利益にかなうようにコントロールしたりするというのが役目であるが、実際は官僚機構が知識人をコントロールしている。そして、さらに電力会社を監視するはずの原子力規制機関を、電力会社がコントロールしている。これを「規制の虜」(レギュラトリ・キャプチャー)という。ミイラ取りがミイラになるということである。

 官僚機構はどうやって、知識人を「虜(とりこ)」にするか。それは学者をエリート層の一部にしてしまうことだった、とウォルフレンは解説する。日本の過去の歴史に即し、次のように書いているのはまことに重要である。

 日本の官僚と軍人が国民の間に"危険思想"が広がることを懸念し始めたとき、知識人たちはまず最初、そしてそれも非常に長い間、統制の対象から外された。こうして、知識人たちは特権を確保した。つまり、一般人よりは自由に、破壊的な、権力を脅かす思想を信じることを許されたのである。"危険思想"は長い間、それが一般庶民の間まで浸透したときに初めて、本当に危険なものになると考えられたに過ぎなかった。(同書17ページ)

 このように、知識人を体制派に取り込むために、権力側は知識人の周囲30メートル以内では、割りと自由に議論をさせた。知識人の仲間内では一般庶民が知ってはいけない情報が流通したわけである。人間は世界全体のことよりも周囲30メートルの議論で思いのほか、世界を見てしまうものである。自分の周りに反原発の人が多い人は、なんとなくそれが世論だと思ってしまうものだし、逆に原子力関係者が家族にいたりする人などは、いくらパブリックコメントの集計結果でマジョリティが脱原発だという結果が出ても、それを認めようとはしない。

(つづく)

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<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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