買収時における周囲の甘言に不満を覗かせた大川氏であるが、その説明には幾つかの疑問も残る。
そのひとつに、株式の保有者についての疑問がある。従来、ネクスト・キャピタル・パートナーズらから株式を譲り受けたのは「ダイセンビルディング」であると説明されており、当のダイセンビルディングのみならず、売主であるネクスト・キャピタル・パートナーズやさとうベネック自身も、この点をHPで公式にアナウンスしてきた。ダイセンビルディングは1985年1月に設立された不動産オーナー業を営む会社であり、資本金は4億9,995万円。中洲や銀座に複数のビルや駐車場を保有していることが分かっている(※同社の財務状況や保有不動産については、弊社情報誌『I・B』7月17日号および8月30日号で報じている)。
しかし、説明会では一貫して「株主はダイセンホールディングス」とされ、それゆえ、さとうベネックから13億円を借り入れたのも「ダイセンホールディングス」であったとされる。しかも説明会の冒頭、弁護士から「両社の間には資本関係が無い」との説明がなされていた(※孫会社の場合も、通常は資本関係が認められる)。ダイセンホールディングスは2012年2月に新設された会社であり、資本金は50万円。ダイセンビルディング保有の不動産の登記を見ても、ダイセンホールディングスに資産が移された様子は見られない。要するに、株主となった会社(ホールディングス)にみるべき資産は無く、しかも、資産を持った会社(ビルディングス)とは資本的に切り離されていることになる。これでは余程強い保証人を立てなければ多額の銀行借入を起こすことは難しく、さとうベネックに対する返済計画も現実味の無いものになってしまう。この点、大川代表は、「デフォルトになれば」「あなた方も私も終ってしまう」と説明していたが、上記の説明がすべて真実であれば(代理人弁護士の準備不足による誤説明の可能性もある)、少なくともダイセンビルディングが終ることは無い。あとは、さとうベネックの代表者として、大川氏がどれだけの個人保証を負っているかが問題となるだけである。
この問題は、現経営陣だけのものではない。代理人弁護士は、株式の移動について「ネクスト・キャピタル・パートナーズそのほかから、ダイセンホールディングスが全ての株式を取得した」との説明を行なっている。先述のように「ホールディングス」と「ビルディングス」では信用力に大きな差があるため、この点は明確に区別されねばならないが、弁護士の説明に間違いが無いとすれば、ネクスト・キャピタル・パートナーズは虚偽の事実を公表して周囲に誤った与信情報を提供したことになる。意図的であれば、企業再生に関わる身としてあるまじき背信行為であり、過失であったとしても同社の能力に疑問符が付こう。この点につきネクスト・キャピタル・パートナーズは、「(本案件を)手がけた担当者は既にいない」、「取材も一律にお断りしている」とコメントするが、疑念を振り払う意味でも、正確な説明をさとうべネック側に求めるべきではないだろうか。
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