2011年３月11日午後２時46分18秒――。宮城県沖130kmを震源として発生した地震は、日本観測史上最大のマグニチュード９.０を記録。これにより場所によっては10mを超える大津波が発生し、東北地方および関東地方の太平洋沿岸部に甚大な被害をもたらした。この未曽有の大災害は、岩手・宮城の両県だけで約2,000万トンとされる災害がれきを発生させ、震災から１年以上が経過した現在でも、その処理はほとんど進んでいない。そんななか、横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏が提唱する「森の長城プロジェクト」が注目を集めている。

＜「森の長城」が灯す日本の未来＞
　「森の長城プロジェクト」は、ひと言で説明すれば、太平洋沿岸部に森の防潮堤をつくり、次の大震災（大津波）に備えるというものである。目標総延長は、青森県から福島県までの海岸線、実に300㎞になる。重要なのは、植林をするためのマウンド（土塁）に、残土と震災で発生したがれきを使用するという点にある。横浜国立大学名誉教授で一般財団法人「瓦礫を活かす森の長城プロジェクト」副理事長の宮脇昭氏は、これらのがれきを「地球資源」であると主張し、自然界が生み出したエコロジカルな存在なのだから、捨てたり焼却するのではなく、有効活用するよう訴えている。

　海沿いには穴を掘り、がれきと土地を混ぜ合わせる。これにより、土中に空間が生じ、生長した木々の根がより深くまで浸透し、津波が来ても倒れにくい森の防潮堤ができるという。植えるのは、その土地の本来の樹種である潜在自然植生の木を選ぶ。こうすることで、10年から20年程度で防災・環境保全林が誕生する。また、こうしてできた森では個々の樹木は世代交代しても、次の氷河期、つまり9,000年ほど長持ちする持続可能な生態系としてたくましく存在し続ける。

　もちろん、東日本大震災当時にも防潮林は存在した。主にクロマツやアカマツで構成されたそれは、大津波の凄まじいパワーによってなぎ倒され（奇跡の一本松は、文字通り奇跡的に無事だったがそれ以外はすべて流木と化した）、人や建物に危険をもたらした。また、引き水のときには、本来ならばフックとなって人や財産が海に流れるのを防ぐはずが、その役割を果たすことはなかった。宮脇氏がつくろうとしているのは、今回の苦い教訓を活かした力強い森の防潮堤なのである。

　植えるのは、前述の通り、その土地本来のさまざまな種類の常緑広葉樹（潜在自然植生）。それらは、深根性・直根性で地中にしっかりと根を張り、根こそぎ倒れることはない。また、大津波に襲われても、粉砕効果で津波のエネルギーが減殺され、人々が暮らす地域に到達する頃には、津波の威力も弱まっている。また、引き水のときには、漂流する人々や財産が海に流れるのをせき止めてくれるはずだ。復興の妨げになっている震災がれきを現地で建設的に処理することが可能で、なおかつ過去の文献などによる記録から100年～150年周期で訪れると考えられている大震災に備えることもできる。理事長に細川護煕元首相、理事には作詞家でプロデューサーの秋元康氏や東京大学教授のロバート・キャンベル氏など、そうそうたるメンバーが名を連ねるのも納得ができる。

　南北約300kmの植林用のマウンドを築くには、9,000万本分の苗木代など多額の費用がかかる。しかし、このプロジェクトが日本中を巻き込み、大きなうねりとなったとき、今は大きく見える壁も、きっと乗り越えられるだろう。今こそ、東日本大震災という未曾有の大災害からオール・ジャパンが手を取り合って、絆という言葉の元に結束するときであり、その力が試されている。改めて、森の長城は実現可能かつ、現実的なプロジェクトであるとここに記載しておく。

　世界でもほかに類を見ない「森の長城プロジェクト」。エコロジカルかつ壮大なプロジェクトによる復興を日本人が果たしたとき、そこは世界のエコロジーの中心地となり得る。関係者からは、「森の長城・森の防潮堤」が完成した暁には、世界遺産になることを期待する声も上がっている。

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