延吉氏が小倉記念病院の理事長・病院長辞任に追い込まれた背景に、そのワンマン・独裁ぶりへの批判があったことをみてきた。それだけでも、引責辞任に等しいといえる。
「延吉院長の辞任の理由は、それだけではない」と、現理事の一人が語る。
円満解決を探ってきたが、延吉氏が辞任後も次期病院長指名や新理事選任など混乱を続けるので、病院を守るために、"新理事"や評議員にぜひ知ってもらいたいことがあると明らかにした。
<「違法だとわかっているはずだ」>
副院長らが延吉氏辞任要求を突きつけたのは、6月18日の定例理事会。辞任要求の理由は、実は、次のような内容だったという。
延吉氏が向精神薬のレンドルミンを処方箋なしに病院の薬局から不正入手した。ドクターだから、違法行為なのはわかっているはずだ。われわれは責任ある医師として、厳正な対応をする。延吉先生にはすべての役職から離れてもらう――。
向精神薬は、その危険性などから第1種から第3種まで分類される。「麻薬及び向精神薬取締法」により、譲り受けから保管、譲り渡しまで厳しく制限されている医薬品だ。
レンドルミンは、睡眠導入剤として使用される医薬品で、飲んでから短時間で睡眠に導く効果や抗不安作用がある。医師の処方が必要で市販はされていない。副作用としては、連用すると依存症を生じることもあり、医師の指示した服用量の厳守が必要。薬の添付文書によると、不眠症の場合就寝前に1錠(0.25mg)。保険診療上は通常、1日2錠が上限になっている。
<処方箋なしに規制薬を要望>
延吉氏は、規制薬と認識したあとも、土日や時間外を問わず、月に1回ほど院内薬局を自ら訪れて、処方箋なしでレンドルミンを要望し、取得していたという。また、規制外の薬を薦められたにもかかわらず、規制対象のレンドルミンを要望し続けたとされる。
これに対し、理事会で延吉氏は「証拠がない」の一点張りで、「証言がたくさんある」「職員は嘘をつけない」と言われると、「大丈夫って」「見てると言っても、証拠がない」と開き直ったという。
理事長・病院長の延吉氏が院内薬局を訪れて要望すれば、処方箋がなくても、職員は渡さざるを得なかったのは無理もない。「もし自分が当直のときに院長が来たらどうしよう」と不安を覚えたことだろう。
医療スタッフは、患者への責任感から過酷な勤務のなか献身的に働いている。薬剤部門も例外ではない。しかも、小倉記念病院の薬剤部門は、「チーム医療」の推進のなかで、「薬剤師の病棟配置」に先進的に取り組んでいる。入院患者に対し、病棟に配置された薬剤師が効果の確認や副作用のモニタリングなど患者の状況を把握して処方変更を提案するなど、薬物治療の質・安全向上に貢献するものだ。
「導入に当たって延吉先生はかかわっていず、他のドクターの要望で実現した。延吉先生は、業者がからむとか、循環器内科のこととか以外には関心がなかった」という声がある。
延吉氏が日ごろ関心のない分野だった薬剤部門との関わりが、レンドルミンの不正取得というのでは、薬剤部門のスタッフは浮かばれない。
<勇退ではなく、引責辞任だった>
医薬品を処方箋なしに譲渡した場合について、厚生労働省医薬食品局に取材した。そんなことがまともな医療機関で起きることはありえないという反応を示しながら、最初にこう断言した。「薬は処方箋にもとづいて出すものであって、処方箋なしに持ち出すのは、処方する時間がないとか緊急性を要するなど例外以外にありえません」。
理事会では、「犯罪を犯した」との言葉も飛び出したという。
医師としてやってはいけないことをしたというなら、これはズバリ引責辞任にほかならない。それなのに、周囲は、延吉氏の名誉を守るために円満解決を図ってきた。その努力と思いやりを延吉氏が理解できないとは、なんとおろかな話だ。
【特別取材班】
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