2011年9月1日、鹿児島県出水市の市立中学校に通う中学2年生(当時)の女子生徒が九州新幹線の線路に飛び込み、自殺するという痛ましい事故が起きた。学校側は、女子生徒の遺族の願いもあり、真相究明のためのアンケートを実施。アンケートを行なうことは「遺族のため」との内容が含まれていたが、その結果は開示されていない。遺族は、「学校でいじめられていた」といった話を同級生やその保護者などから聞いており、アンケートの開示を強く願っている。しかし、出水市教育委員会(以下、市教委)は、調査の結果、「いじめは"直接的な"きっかけではない」とする見解を示した。
女子生徒が自ら生命を断った場所は、自宅から300mほど離れている九州新幹線の線路をまたぐ陸橋。そこには線路内への侵入や転落を防ぐように高さ4mの金網のフェンスがそびえ立っている。網の目は1辺の長さが約3cmのひし形となっており、靴を履いてよじ登ることは極めて難しい。女子生徒は履物を脱ぎ、裸足でこの金網を登ったと考えられている。足の指に食い込む金網の痛みを感じながら、どのような思いで登ったことだろうか。
事故が起きたのは午前6時20分頃。女子生徒は、鹿児島から熊本方面へ向かっていた九州新幹線の回送列車にはねられた。金網の一番上から九州新幹線の線路までの高さは建物の3階ぐらい。発見当時、電線は大きく歪んでいたことから、女子生徒は線路上に張られている電線に1度当たって転落したと考えられている。もしかしたら転落時にまだ意識があったかもしれない。
女子生徒が家にいないことに気づき、家族が捜索を始めたのは午前4時20分頃のこと。事故発生前の時間帯に現場近くを通った新聞配達員は、女子生徒の存在に気づかなかったという。周辺は、時間帯に関わらず人通りの少ない場所である。「誰か来ることに気づいて、影に隠れていたのではないだろうか」と、女子生徒の祖父・中村幹年さんは心痛な面持ちで語る。
事故現場が物語るのは、自ら生命を断つことを選択した女子生徒の心の傷の深さではないだろうか。不謹慎ながら「せめて、もっと楽な方法はなかったものか」と思わずにはいられない。
「いじめが直接的な原因ではない」という見方をすれば、到底理解できないのだろう。市教委担当者から遺族に対して、事故発生の約2週間前(11年8月18日)、女子生徒が接種した子宮頸がんワクチンの影響ではないか、といった荒唐無稽な言葉が投げかけられた。幹年さんは医師に見解を求め、医師は当然ながら診断書で、前例がないことを添えて無関係を証明した。
市教委による一連の調査において、調査員がはたして女子生徒が自殺した現場へ足を運ぶようなことがあったのだろうか。市教委の調査報告書や、12年8月23日付で公表された市教委の文書には、そのような記述はない。「直接的」ではないとする言い回しも考えものだ。たしかに、事故発生の前日(11年8月31日)までは夏休み期間中であり、ほかの生徒との接触は少なかっただろう。しかし、見方を変えると、始業式当日に生命を断つ行為は、学校へ行くことへの拒否反応の結果と考えられるのではないだろうか。女子生徒が越えた物言わぬ4mの金網は、そのことを静かに伝えている。
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▼関連リンク
・出水市中学校女子生徒の轢死に関する事故について(出水市教育委員会)
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