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大さんのシニア・リポート~第4回 高齢者を地域で支えるというけれど2(前)
社会
2012年9月18日 17:00

 高齢化する街と住民をどのようにしてサポートするか。地域住民はどのように関わればいいのか、関わり方は千差万別。その最新状況を報告している。といっても、全国的に詳報するというわけにもいかない。ただ、(独り住まいの)高齢者、障害者など、いわゆる生活弱者の居場所作りや安否確認、見守りに関してはいくつかに大別される。それをわたしが住む街(埼玉県所沢市並木地区)を中心に報告していきたい。

 前回、東京都中野区が「地域支えあい推進条例」をスタートさせたことを報告した。これは高齢住民の孤立化、孤独死からの早期発見のため、名前、年齢、性別、住所、電話番号などを町内会や自治会などに提供し、地域でそこに住む高齢住民を見守ろうという画期的(日本初)な条例だった。ただし、発案し推奨した区長や関係者と役所の窓口との間に、正直、若干の温度差を感じている。
 問題は中野区にあって、この条例を受け入れた町内会や自治会(強制ではない)の担当者(現場)の覚悟の仕方だろうと思う。覚悟というのは、どのようにして見守ればいいのか、「見まもりの方法」について、かなりの不安と戸惑いを感じていると推測できるからだ。個人情報の故意による漏洩には、最高30万円の罰金が科せられる。「日本初」ゆえのプレッシャーがあると思う。きっちり取材した後、報告するつもりでいる。もうしばらくお待ちいただきたい。

 わたしが住む並木地区には、こぶし団地という築46年の連棟式団地がある。大半の住人が30歳代で入居した今、住人は70歳を越え、65歳以上のいわゆる高齢者は50パーセントを超す。市街地にある「限界団地」(「限界集落」の造語)である。「限界集落」とは、65歳以上の高齢者が半数を越え、冠婚葬祭などの社会的共同生活が困難になった集落をいう。こぶし団地はまさにそれに近い街だ。自治会員も高齢化し、執行部役員のなかには認知症と思える住民もいて、自治会運営も以前のようにはいかない。
 来年、ここに高齢者専用のレストランがオープンする。元気で生きていくには、まず「食から」である。気軽に利用してもらえば、ここが高齢者の居場所のひとつになり、生活するためのさまざまな情報が得られる。そのことで、孤立や孤独死からの回避も可能になるだろう。こうした高齢者を支え、見守ることを意識したサロンが各地に急速に増えている。

 埼玉県春日部市武里団地内にオープンした「ふれあい喫茶」が人気を呼んでいる。喫茶店は団地内の4つの自治会で作る自治連合会主催で、毎週水曜日午前11時から午後2時までの3時間。4月のスタートから順調に推移している。きっかけは、昨年9月、地域活動を条件に、市から家賃補助などを受けている日本工業大学(宮代町)の学生たちが、今春、ギョーザやお好み焼きを住人と手作りした「隣人まつり」を開いたのがきっかけと聞く。板橋区の高島平団地(昭和47年竣工)が近隣の大東文化大学の学生に、自治会活動を義務づけることで(大学側が)家賃援助をした例と酷似している。UR(都市再生機構)にとっては空き室解消になり、団地住民にとっても若い人たちの自治会加入は、団地住民を活性化させる。

 杉戸町では、昨年の東京電力福島第一原発事故で、福島県富岡町から同町に避難してきた人たちが自立へのきっかけをつかむために、地元のNPOと町とが協力してサロンを開設した。高齢者の見守りとは趣旨が違うものの、心細い生活を送っていた富岡町の人たちにとって、最高のプレゼントだろう。

0918_salon.jpg また、各地にある高齢者施設にも、カフェが併設されるようになった。東京都港区の有栖川宮記念公園に隣接する特別養護老人ホームとグループホーム(認知症)が入る複合型介護施設「ありすの杜きのこ南麻布」には、レストラン「アスパローゼ」がある。880円のランチセットが人気だ。
 ここの特徴は、利用者の8割が施設利用者以外の一般の人たち。形式的には街のレストランと同じだが、「施設利用者と一般客とが自然に交流して、利用者の疎外感を払拭すること」「一般利用客にも、特養や認知症の施設という印象を変えてほしい」という施設側の思惑と、利用者の「リーズナブルで居心地がいい」という気持ちが見事に合致する。こうしたレストランやカフェなどのサロンが各地に設けられ、地域で高齢者や障害者を支える起点として有効活用されている。
 しかし、ピンポイントに高齢者を「見守る」という視点(即効性)から見れば、やや婉曲的(ソフト)な見守りであることは否定できない。もう少し本格的に「孤独死からの回避」という視点で見守りを考えた場合、別の方法があるのではないか。

(つづく)
【大山 眞人】

≪ (3・後) | (4・後) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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