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「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(5)
経済小説
2012年9月26日 07:00

<二頭体制崩壊の背景(5)>
 金融庁は公的資金の投入により金融機関の倒産を何とか食い止めることに成功した。次の段階は金融機関が抱える不良債権を早く処理させて、金融秩序の安定を図ることであった。
 今まで維新銀行のドンとして君臨していた谷本が手をつけなかった不良債権の処理を、頭取に就任して間もない谷野が実施したことは、金融庁や中国財務局などから高い評価を受けることになった。

 中国財務局管内の金融機関のなかには、風評被害による取り付け騒ぎを警戒して、思い切った不良債権処理に二の足を踏んでいる金融機関が少なくなかった。
 しかし優良銀行で名が通っている維新銀行が口火を切って赤字決算を実施したことから、他の金融機関も気にすることなく、不良債権処理を進めていくことができるようになった。

 谷野が、谷本や栗野の反対を押し切って不良債権を処理したことによって、行内において「金融庁の検査が何ごともなく終わったのは、谷野頭取の先見の明だ」との称賛の声が上がり、谷野は維新銀行内において名実ともにナンバーワンの地位を固めていった。
 谷本の傀儡と見られていた谷野の評価は一変し、今まで谷本に遠慮していた行員から第五生命の山上正代の強引な保険勧誘が続いていると、谷野の耳に頻繁に入るようになった。

bgns_7.jpg 谷野は審査担当の梅原取締役に山上の保険勧誘についての実態調査を依頼した。その報告結果によると、維新銀行で第五生命の保険料ローンの取扱件数は100件を超えており、ローン残高は14億3,500万円に上っていた。谷本が頭取時代に山上正代が持ち込んだ案件がほとんどであった。保険料ローンの期間は5年ものが多く、既に完済されたものもあり、過去に遡れば取扱件数はほぼその倍ではないかと推測された。今現在ある保険料ローンは毎月元利均等の分割払いであり、それから逆算すると元本は軽く20億円を超える額であった。

 保険料ローンに取り組んだ企業は、維新銀行を主力としている企業がほとんどを占めており、そのうち7~8割は要注意先の企業であった。山上から保険勧誘の協力を依頼された支店長が、維新銀行がメインで、業況が厳しいためなんでも言うことを聞いてもらえる企業をターゲットにして、無理やり保険料ローンを押し込んでいる図式が浮かび上がった。
 これは保険会社の社員を紹介するという儀礼的なものではなく、銀行が優越的な地位を利用して企業に山上の保険へ加入させる違法な行為であった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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