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「彼女にフラれたので休職したい」... !?~「新型うつ病」のデタラメ 中嶋聡著(新潮新書)
書評・レビュー
2012年9月28日 14:00

 本書は医学でなく社会科学関連書籍である。世の中に数多くあるこの種の"闇"にメスを入れることができなければ、「社会的公正」も「正義」もすべて、絵空事で終わる。高額所得者である芸能人家族の「生活保護」不正受給が問題になったばかりであるが、本当に何でもありの世の中になった。

 著者はこれまでも、精神科医の視点で、世の中に警鐘を鳴らし続けている。本書は3章で構成されており、1章と2章は、純粋に「新型うつ病」を医学的観点から、具体例を挙げながら解説している。医学的な部分は多少難しく、また真面目な読者は、その呆れた実態に少なからず憤りを覚えるかも知れない。しかし、その読者も3章にくれば、"スカッと"するので最後まで読んで欲しい。

 著者は「新型うつ病」は、今や単なる医学の問題でなく、社会問題であると言い切る。それは、明らかに従来型の「うつ病」とは異なる特徴を持ちながら、うつ状態を呈する病態の総称のことを言う。読者の多くは次のような囁きを耳にしたことがあると思う。
 「あの人うつ病と言ってるけど、怠けているだけじゃない?」
 「休職しているという割にはゴルフや2度も海外旅行に行っているのはなぜ?」

 これだけで事が終われば、単なる「ダメ人間」だ。しかし、傷病手当の対象になると、会社を休んでも給料の6割がもらえる。この手当を限度一杯の1年6カ月もらった後、障害年金を申請する人がこの不況で急激に増えている。申請が認められると一生涯にわたり、生活が保証されるのである。

 明らかに病気でないので、著者が診断書を拒否した例として、「上司に叱られた」、「彼女とケンカした」という理由で気分が落ちこみ、やる気が出ないと外来受診する人間。なかには「気分がよくなる薬をもらいたくて来た」という例もまれでないという。ところが、著者が診断書を拒否しても、怪しげな支援団体、医師が存在し認定を獲得してしまうらしい。読後に関係者に聞いた話では、1日に20枚近く診断書や申請書を乱発する医師もいるという。ちなみに診断書や申請書は1枚1万円という。

 さらに、驚くことには、『知らなきゃ大損、知ってラクチン療養生活』とか『うつ病で障害年金獲得 完全マニュアル』というサイトも複数存在する。診断書の有無は死活問題で、著者は何度も「なぜ書けないのか」と目が血走った人間に迫られている。診断書の効力は絶大で、公務医療、サラ金の借金、奨学金返済、給食費免除等にまでに及ぶ。

 筆者はコンサルタントとして「うつ病」の方にわずか数人であるがお会いしたことがある。しかし、全員がこの内容と真逆だった。彼らは、日本の最高峰の大学、大学院を出て、会社で将来を嘱望されていた。もちろん、会社を休む気持ちなどなく「うつ病」であることを隠そうとさえしていたのである。

 著者も述べているが、不正がまかり通ると、本物の「うつ病」が誤解を招くばかりでなく、真面目に仕事をしている人が報われない。直接的利害が絡む企業は一貫して「さわらぬ神に祟りなし」の姿勢である。行政、心ある政治家に「社会的公正」や「正義」の実現の為にも鋭いメスを期待したい。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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