9月21日の佐賀地裁での意見陳述で、「原発なくそう!九州玄海訴訟」1次訴訟原告で佐賀市の医師満岡聰さん(53)は原発事故における災害弱者の問題を指摘し、基本的人権を脅かす玄海原発の操業差し止めを求めた。満岡さんは、原発事故による死亡者は放射線被曝に限らないとして、適切な避難ができずに亡くなった例として、双葉病院事件をあげた。
<災害弱者らの「防ぎえた死」>
福島第一原発から約4キロの位置にあった精神科の双葉病院入院患者340人と介護老人保健施設入所者98人が避難に当たって、必要な医療的引き継ぎが行なわれず搬送中・後に21人が死亡したと紹介し、その教訓を「学ぶべきことは、寝たきり、精神病や認知症などの患者、災害弱者たちの避難体制が確立していないと、餓死者や凍死といった『防ぎえた死』が起こるということだ」と述べた。
「原発の半径30キロメートル以内のどこに何人の自力で動けない寝たきり老人、精神病患者や認知症患者、障がい者がいるか把握しているでしょうか。移送する手段や移送先は確保されているでしょうか」と、満岡さんは国と電力会社に問いかけた。
「移送先に医師や医療スタッフ、介護スタッフ、特別食や薬の供給、検査体制、入院機能の確保が必要だ。避難時に交通渋滞など予想される混乱のなかで重症の病人や障がいを抱えた災害弱者の命が危険にさらされることは、福島の例を見ても明らか。残念ながら日本の災害医療は原発災害のような大規模な災害に有効に機能できない」と指摘した満岡さん。「私が普段診療している患者さんたちは災害弱者であり、原発を存続させると患者さんの命を守れない。「『防ぎえた死』を回避できない以上、原発の運転を行なってはいけない」と訴えた。
<農地は生活、人生のすべて>
2次訴訟原告の麻生茂幸さん(62)は、玄海原発から約18キロメートルの佐賀県唐津市で「(有)みのり農場」を経営している。農場は、玄海国定公園の真ん中にある。先祖代々農業を営み、現在は、妻、二男家族、長女家族、三男、そして従業員が37人。1万6,000羽の鶏を飼い、田んぼ9反で米作、6反の畑で野菜を作る。観光客を相手に鶏飯やプリンを販売している。
「地域循環型農場をめざし、食の『安心』『安全』『おいしい』をめざして、米や野菜の有機栽培と鶏の平飼い(放し飼い)を行なっている」と述べ、試行錯誤を繰り返しながら約30年かかって軌道に乗ってきたと話した。
農業が軌道に乗るには、土づくり、コミュニティづくり、販売・流通の確保など経営基盤をつくるには長い年月が必要だという。「放射性物質に汚染され表土を除染と称して定期的にはぎ取っていたら農業ができない。表土にこそ様々な微生物がいて土を肥沃にしてくれる。放射性物質わずかな放射性物質がもれただけでも甚大な被害を受ける」。
「福島第一原発事故クラスの事故が起きたら、『警戒区域』に指定され、立ち入ることができなくなり、愛情をもって育てている1万6,000羽の鶏を見捨てて避難せざるを得ないでしょう。農家が農地を失うことは、生産の拠点のみならず、財産、人間関係、生活の基盤、生き様のすべてを失うことだ」「私の家族の生活、人生のすべてといえる農場、先祖代々受け継ぐ土地を守るためには、原発の再稼動を許すわけにはいけない」と訴えた。
<経済効率優先への反省>
弁論後に開かれた報告集会で、麻生さんは、「自然と人間が共生する拠点をつくりたい」と語った。
「脱原発」は生き方の選択だとも言われている。原発推進派は、原発を稼動させないと停電や経済・産業の衰退を招くと脅すが、「脱原発」は「イモと裸足」の"原始生活"を求めているわけではない。逆に、ウォール街のオキュパイ(占拠)運動が告発したように、経済の"発展・成長"で富裕層の資産は増加しても"99%"の民衆には富ではなく貧困をもたらす経済格差の現状が浮かび上がっている。「原発ゼロ」の先に、新しい経済のあり方や豊かな生活があるという考えがある。
麻生さんは、「経済効率という(考えの)最先端が原発だと思う。私も正直言って生産効率から鶏をケージ飼いしてきた」と、反省を語った。ケージ飼いは、鶏を鶏小屋のなかのケージ(かご)に仕切って飼う方法で、日本の養鶏場のほとんどが採用している。麻生さんも、1万6,000羽の鶏のうち、平飼いしているのは6,000羽だという。「ヨーロッパでは、鶏のケージ飼いは禁止されている。しかし、私もケージ飼いを廃止できなかった」。
「反省を踏まえて、今度の意見陳述をさせてもらうなかで悩み、これを機会に結論を出しました。脱原発・脱ケージをやろう」と麻生さんが決意を語ると、会場の大ホールは拍手に包まれた。
麻生さんは続けてこう発言した。「超ローコストで最高クオリティの放し飼いの玉子ができる。新しい日本の農業、自然と人間が一体の最先端の農業です。アグリトピアをつくりたい。知恵と力を出し合って、単に脱原発でなく、生産から生活を含めて、新しいスタイルをつくっていきたい」。
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