<市民の納得と共感あるのか>
「サイレントマジョリティーである子供たちにツケを払ってもらうのか」「これだけの借金を積み上げたことについての反省がない」
自立分権型行財政改革に関する有識者会議において委員からは厳しい意見が相次ぐ。
福岡市の借金は平成23年度末で2兆5千億円を超え、実に市民一人当たり174万円という巨額の負債を抱えている。政令市の中ではあの大阪市に次いで第2位の借金持ちという現状である(人口は政令市中第7位)。表1に市民一人あたり地方債残高ランキングを示すが、福岡市の借金は他市に比べて人口比では飛びぬけて多いことが分かる。
会議では市民の納得と共感がテーマとして議論されているが、市民にはこれほどまでの後年度への負担付け回しである借金行政がきちんと理解されているのだろうか。
第2回はこれまでの福岡市行政における借金経営の功罪を検証する。
福岡市はバブル崩壊以降、景気浮揚をお題目としてアイランドシティ事業(当初事業費4,588億円、その後見直しにより3,940億円に減額)をはじめとする大型公共工事を加速させ、着実に借金を積み上げてきた。果たしてこれらの借金の持つ意味とは一体なんなのであろうか。
道路のような公共工事の財源は通常借金(地方債)によって賄われるが、これは道路のような公共財は将来に渡って利用できるのであるから将来の税金によって借金の返済に充てなさいといういわゆる世代間負担の公平性から導き出されるものである。しかしここに基礎自治体である福岡市の公共事業には落し穴が存在しているのだ。
仮に100億円の道路を作ってその財源を借金で調達するとする。市は民間会社に100億円で発注し、その会社が80億円で作れば20億の利益となる。100億の借金は市民の税金によって将来にわたって返済していくのであるが、公共工事によって20億の民間セクタに転嫁させた利益は将来世代の税負担分から先食いしたものなのである。この発注先が地元企業であれば連関経済効果や納税によって市民に還元されるが、中央の大手ゼネコンが元請けとなっている事業であれば、先食分はまさに市外に流出しその負担を後年度世代の福岡市民が背負うこととなってしまう。国事業であれば元請業者の法人税納付によって地方財政調整機能を持つ地方交付税に反映されるが、基礎自治体の公共事業においては発注先が地元企業でない場合、市外業者への利益分20億円をそのまま余計に負担するのである。
福岡市は支店経済といわれているが、実はこれこそが福岡市の致命的な弱点となっている。借金を積み重ね社会インフラを整備したにも関わらず、その先食い利益の多くが市民のフトコロから流出してしまうのである。
つまり借金による行政運営は過度なインフラ投資分を後年度に付け回すという問題に加え、地元業者の優遇策を検討しないと市外流出した利益移転分の過度な負担を市民に押し付けられてしまうという2重の付け回しとなってしまう。
表2は市債発行額と残高の推移を示したものである。平成8年に1兆9,000億円だった借金は平成18年には2兆6,000億円を超え、10年間に実に6,600億円も増加させた。そのうち3,174億円が高速道路や地下鉄などの道路交通対策で48%を占めている(福岡市財政リニューアルプランH20年6月参照)。桑原・山崎両市政はまさに借金頼みの行政経営だったのである。民間セクタの公共工事利益率が15%程度といわれているため約900億円が先食い利益と言える。
確かに、交通対策に多くの財源を投入し住民満足度は向上したかに見える。また、元請けから地元下請けへの一部発注により先食利益のすべてが域外流出したわけではない。一方で、冒頭の有識者会議に提出された資料によれば、今後のインフラ投資は建て替えが必要となる小中学校や市営住宅、市民体育館や市民会館などが主となり、今後10年間で市有建築物の4割が更新時期を迎えることとなるが、その必要財源額は試算すらされないままである。
非常に財政が厳しい福岡市においてはこれまでの借金は着実にコツコツ返済していくしかないが、今後過度な負担を将来世代に残さないためにも事業の必要性と発注者への配慮を十分に検討する必要がある。これこそが現在及び将来の市民の納得と共感を得ることではないだろうか。
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