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経済小説

「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(8)
経済小説
2012年10月 1日 07:00

<二頭体制崩壊の背景(8)>
 堀部が山上と会う約束した一週間後の5月13日、10時少し前に山上が北浦支店に堀部を訪ねて来た。応接室に案内し名刺交換を終えると、山上はバッグから包みを取り出し「支店長ご就任のお祝いです」
 と、堀部に手渡した。早速開けてみると、桐の箱の中に金箔の器に入った色鮮やかなレンゲの朱肉があった。堀部は押し戴くように、
 「ありがとうございます」
 と、深く頭を下げた。

 山上は、
 「今日、11時に新海峡駅前支店の大島支店長から保険の紹介を受けて、お邪魔することになっているので、その前にお祝いの挨拶をするので立ち寄らせてもらいました。堀部支店長もどこか親しい取引先が出来たら保険の紹介をお願いしますね。そうそう午後に谷本頭取さんとお会いすることにしていますので、堀部支店長に今日お会いしたことをお伝えしておきます」
 と一方的に喋ると、北浦支店を後にした。堀部は山上を見送るため支店の駐車場に向かった。ハイヤーを待たせていた山上の後ろ姿は、「虎の威を借りる狐」の諺とは違っていた。狐ではなく虎そのもののように、維新銀行を舞台に跋扈する女帝の振る舞いのように堀部には思えた。

 堀部にとって都合が良かったのは、北浦支店は新しく設置したため小規模店で、周辺の大口取引先は本店営業部や隣接の支店が取引していたことだ。北浦支店としては零細な取引先が多く、山上の保険を勧誘するような企業がほとんど見当たらなかった。それを山上が知っているのかどうか堀部にはわからなかったが、不気味にも山上から保険紹介の依頼はなかった。

img_03.jpg その間、山上にまつわるいろいろな情報が堀部の耳に入るようになった。山上の保険に積極的に協力しているのは元組合の幹部たちであり、営業推進部の吉沢部長、審査部の川中次長、平和記念通支店の沢谷支店長、新海峡駅前支店の大島支店長、鳥栖支店の北野支店長、南陽支店の松木支店長の名が上がった。
 また組合出身ではないが谷本頭取と同窓のS大出身で、東部支店の取締役を委嘱された栗野支店長、同じくS大出身で扇町支店の古谷支店長の名が上がった。
 
 山上正代は数年前から、年に一度この8人を呼んで密かに懇親会を開いているとの話が出た。この8人は谷本頭取の親衛隊であり、かつ山上の保険勧誘の協力者であることから、将来必ず取締役になるだろうとの噂が流れていた。その噂通り栗田が1994年6月に取締役東部支店長となったことからその噂は真実味を増していった。栗田が取締役となり、このメンバーが次々と取締役となっていくにつれて、山上の維新銀行における存在は谷本に比肩するほどになっていった。
 谷野頭取が山上の維新銀行での違法な保険勧誘を中止させたことが谷本の虎の尾を踏み、この8名が結束して後に展開する「谷野頭取罷免劇」を演ずることになる。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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