あいかわらずユーロが弱い。強引な経済圏の拡大が無理だったのか、破綻したギリシャをドイツは救済するのか、イタリアはどうなるのかと気になる人もいるだろう。でも急に鳴りをひそめた国がある。アイスランドだ。
今年7月、人口31万人のアイスランドに行ってきた。想像したとおり街には「For Sale」の看板があり、人影もまばらだ。しかし白夜の深夜に近づくにつれ、若者が車で走り店も賑わい始める。『どうしたことか』と不思議に思う。
ギリシャが金融資本に破綻させられたように、アイスランドもまた破綻させられたはずだった。前回アイスランドに来たのはちょうど破綻の寸前で、浮かれたような状況だった。農業・漁業に頼っていたはずのアイスランドなのに、建物がバブルのように建てられ、その分の債務だけでも人々の生活は圧迫されているはずだった。
その時期、経済は強引に工業・サービス業へと移行し、とくに金融・不動産部門が発達していた。人口の少なさも加わって、2006年には1人当たりGDPで世界第5位となる。しかしその分だけ08年からの世界金融危機の影響は大きく、民間銀行は軒並み破綻していった。それまでは財政の良好な国で、1998年以降はずっと黒字だった。しかし破綻した銀行を国有化して救済し、信用を失った通貨はほとんど紙くず同然になった。
それを解決すべくロシアから40億ユーロの緊急融資を受けたり、さらにIMF(国際通貨基金)に正式に支援を要請したりした。IMFの登場となれば厳しい緊縮財政と国の持つ資産すべての売却が断行され、その後に残るのは多国籍企業に売り払われた残骸だけが残るだけ。それが普通だ。ところが売り払われるどころか、国内にあのMバーガーすら存在しない。タクシーの運転手に聞くと、「通貨が暴落して原料も輸入できないと撤退したんだよ」と言っていた。破綻した国は、Mバーガーだらけになるのが普通なのに。
<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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