9月8日、三陸高田市の市役所付近を歩いた。津波で深くえぐりとられた街の跡。そこに残された市役所、警察署、高校、団地などの廃屋は、これらの周辺に市民の賑やかな生活の場があったことを想起させる。
賑やかな廃墟をいまだ残る廃墟に今日も大型バスが乗りつける。観光ではなく弔問に、そしてボランティアに。何か地域のためにできることはないかと視察するために。
しかしこの"何もない場所"の前に立ちはだかる見えない壁の層は厚い。生命力の強い雑草だけがわずかな土を見つけては根を下ろす。
できることは、慰霊碑の前で手を合わせることぐらいか。
本当にそれだけなのか?
そんな思いでシャッターを切っていると、陸前高田市役所の廃屋の前で、福岡リーダーズ倶楽部のひとりが言った。
「今、市役所は高台に仮設庁舎を建て運営しているけれど、そこにあなたが見たがっていたバイオトイレがありますよ」
その声に、我に返る。
バイオトイレは、微生物の分解、浄化の力を使って洗浄する、汲み取り不要の循環型トイレだ。様々な企業で造られているが、ここでいう「バイオトイレ」は、はるばる九州から福岡リーダーズ倶楽部のメンバーによって届けられた、(株)エイト(本社:福岡市博多区、末石藏八代表)のバイオトイレのことである。
医療・介護福祉用品およびエコ商品販売を手掛けているエイトは、福岡リーダーズ倶楽部の事務局が置かれている会社でもある。
2011年5月、被災地の避難所トイレの衛生状態が悪化しているという新聞記事を見た、同社、そして同倶楽部メンバーの久場眞三氏がさっそく被災地へバイオトイレを届けようと動き始めた。
しかし宛もなく運んでは、受け入れ先がなく相手に迷惑をかけてしまう。そこで協力をあおいだのが、岩手大学清水教授だ。
人脈の広い清水教授は、県庁内を自由自在に動き回り、久場氏をいろいろな部署に案内してくれた。そして久場氏は、岩手県保健福祉部・保健福祉企画室や陸前高田市建設部都市計画課と総務部財政課を通じて、同市仮庁舎前にバイオトイレの設置を行なうことができるようになったのだ。
ちなみに、打ち合わせのあとは岩手工業の熊谷社長の案内で、いち早く現地の視察を行なっている。
バイオトイレのある仮庁舎へバスに乗って向かった。時間と立地の関係上、陸前高田市役所仮庁舎の前でバスを止めるわけに行かなかったが、バスは仮庁舎の前でわずかに速度を落としてくれた。細い坂道は急カーブを描いていて、車体が大きく揺れた。体勢を崩して転んでしまったが、なんとかシャッターを切ることができた。
"ファイトいわて"と書かれているのが、バイオトイレである。斜めになってしまって申し訳ない。しかし市役所の人たちも、このような細くうねった道路事情のなかで仕事をしているということを伝えるために、あえてこのまま掲載する。
被災地から高台に居を移せたからといって、そこで問題は終わっていない。もともと何もないところに移ったのだ。人々は、インフラ整備がまるで追いついていない環境のなかに身を置きながら、今まで通りの生活を維持させなくてはならなかった。
そして、バイオトイレは今も活用されている。
「トイレがないのなら、すぐにバイオトイレを被災地へ!」
「おせっかい」というより、現地の悲鳴を聞いて駆けつけることは、すでに行なわれていた。その後、福岡リーダーズ倶楽部有志が、「市民の足として、自転車が必須だ」という地元からの声を聞き、一晩かけてトラックを走らせ、200台の自転車を送り届けた。
そして今度は、停滞してしまった被災地に押しかけ、何かお役に立てることはないかと考えている。これは千葉氏が言うところの「おせっかい」なのだろうか。それならば「おせっかい」は現在進行形だ。
東北の人たちや優しく、忍耐強い。「海とともに生きているのだから、津波の被害を受けるのも当たり前」「命を落とさなかったのだから、それだけで私たちは幸運なのだ」――しかし、そうやって自分たちだけで重荷を背負おうとする人たちの哀しみは、いったい誰が受け止めてあげればいいのだろう。
「もっと東北に来てくださいね。九州の人たちにそう伝えてください」
道中、いろいろな人からそう声を掛けられた。宴で言葉を交わした産学官の人たちの多くから、そして、道の駅でとうもろこしをおまけしてくれた農家の方や先人資料館の職員たちから。観光に来てください、という意味も確かにあるだろう。しかし同時に、現地を見て欲しい、声を聞いて欲しい、と手を差し伸べられたような気がする。
声を上げずに立ちすくむ相手には、もっとこちらから踏み込んでいかなくては。そんな「おせっかい」をしに、福岡リーダーズ倶楽部のメンバーは、岩手にやってきた。
「じゃあ、次の場所に行きましょうか。社屋が崩壊してもがんばっている若手経営者にも会えますよ」
綾戸一由氏率いる福岡リーダーズ倶楽部の旅はまだまだ続きそうだ。
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※この後の岩手の経営者との出会いは、10月下旬から、新しい企画として連載予定です。
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