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経済小説

「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(12)
経済小説
2012年10月 5日 07:00

<二頭体制崩壊の背景(12)>
 谷本は、
 「谷野君は昼食会に遅れてきたり、早く切り上げたりする行動が目立つようになった。昼食会の席で先輩の僕に対しても、時々不遜な態度を取ることがあったので、他の役員の手前もあるので改めるように注意したが、その場は神妙な顔をしていても、その後一向に改める素振りはなかった」
と、悔しそうな話し振りになった。

 ここで谷本が述べた昼食会について触れておきたい。

 谷本は日当たりの良い南側の2部屋を執務室としており、頭取の個室よりも広い部屋をあてがわれていた。肩書きは相談役であったが、役員室のある6階では法王のような存在であった。
 維新銀行では、谷本相談役が本店にいる時は、役員同士の意思疎通を図るための昼食会が催されていた。コの字のテーブルの形式となっており、中央の席に谷本相談役と栗野会長の2人が座り、その横の列が谷野頭取。以下本部役員が向かい合わせに座り、実質的に維新銀行の経営を担っている頭取の谷野はNo.3の席順であった。
再び2人の会話に戻すことにする。

 吉沢は、
 「谷野頭取は一寸でも気に食わないことがあると激情すると、沢谷専務、北野常務、川中常務も口をそろえて言っていました。私もこっぴどく叱られたことがあります。なんと言ったらいいか適切な言葉が見当たりませんが、人と人との人間関係を軽視する姿が見受けらます。どうも人情の機微が浅いような気がします。お客さんや取引先との対応もそうですし、行員に対する対応も気に行った時と、気にいらなかった時の落差が大きいように思います。特に頭取になってからは役員の意見さえも聞かなくなり、独断的な行動が目につくようになりました。みんなが頭取としての資質に疑問を持ち始めているように感じました。谷野頭取を組織のトップに頂いて、尊敬して付いていけるかどうか疑問に思うようになりました」
 と、心に溜まっている感情を一気に吐き出した。

 谷本は、
 「栗野君が、谷野君と顔を合わすのも嫌だと言っている。この先どうしたらいいものかな」
 と、天井を見上げながら大きな溜息を吐いた。
 ふっと一息ついて谷本は、
 「今この様なことになってしまったのは、僕が谷野君を頭取にした人選が失敗だったのか」
 と、寂しそうな声で呟いた。

img_02.jpg しばらく沈黙が続き室内はピーンと張り詰めた空気が漂った。今まで心に秘めていた自分の考えを吐露することを決心した谷本は
 「谷野君を、頭取のままにしておくと大変なことになる。頭取を交代させることも考えないといけないなぁ」
 と、意を決したように言った。

 谷本の言葉に感極まった吉沢は、
 「今日お話をお伺いして良く分かりました。役付役員は組合出身者同士で気心が知れています。谷本相談役の胸の内を伝えて、今後の対応を真剣に話し合うことにします」
 と、声を詰まらせながら自分の考えを伝えた。2時間以上におよぶ谷本と吉沢の会談は、谷野頭取罷免の謀議が始まるきっかけとなった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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