「851億円のビルドという部分を財政当局から十分ご説明できなかったが、政策推進プランとあわせてご議論いただく必要がある」
山崎副市長は、自立分権型行財政改革に関する有識者会議で、このように述べ、前半戦の最終回である第7回を9月28日に締めくくった。
今回は851億円の財源捻出ための市当局が示したスクラップ内容について検証する。
(表1)は有識者会議に示された財源捻出のために市財政当局が考える"大ナタ"プランである。これが実施されると、はたして財源はいくら捻出できるのであろうか。
市当局のスクラップ案を検証すると、年間削減効果額の算定できたものだけでも、現業職員廃止30億円、市営地下鉄一般会計負担見直し1億5,000万円、市営渡船一般会計負担見直し9億円、高齢者個人給付廃止11億円、高齢者施設利用料減免廃止1億円、市営駐車場廃止2億5,000万円、今宿野外活動センター廃止4,000万円となることがわかった。以下、詳しく見てみる。
①行政運営の効率化
(1)区役所窓口の民間委託
地方公共団体の窓口業務の民間委託について(内閣府)の資料によれば、北海道由仁町人口5,700人の三川支所の窓口業務を官民競争入札の結果、民間が落札し、経費削減年間275万6,000円、人員の削減が正職員1人分の減となった旨が紹介されている。現在、福岡市においては7区役所において窓口業務を実施している。すべて市職員もしくは非常勤職員等で対応しているが、官民競争入札によって民間委託を行なうとすれば、人口140万人の福岡市においては相当な額の経費削減効果が見込まれるはずである。
(2)市立保育所(14カ所)の民間移管
2007年度までに民営化した保育所(飯盛保育園、隅田保育園、板付保育園、東住吉保育園)については検証が行なわれている(保育所の保育内容等検証結果報告書 福岡市平成19年12月民営化した保育所の保育内容等検証委員会)が、その経費面での節減効果は公表されていないようである。
一般的に公設保育所の民営化は職員の人件費の削減に求められるが、サービス水準の維持によって財政的には追加となるケースもある。
公立保育所の民営化について(2012年4月、福岡市こども未来局)によれば、民間移管にあたって、市は土地を貸与、建物・備品は移管先民間法人への譲渡が方針とされているが、市は効果をきちんと測定したうえで実施することが求められるがトータルでの財源削減効果は不明のままである。
(3)技能労務職関係業務(いわゆる現業)職員の退職不補充
福岡市には技能労務職関係業務に従事する職員いわゆる現業職員が1,024人在職している(第4回16ページ参照)。
下表は福岡市が公表している現業職員と民間との給与比較であるが、実に1人あたり200万~400万円の差額がある。仮に差額単価300万円×1000人とすると30億円のコスト削減効果が出ることとなる。
(4)市営地下鉄への補助金の見直し
市営地下鉄には2009年度の損益は2,500万円の赤字となっているが、これには毎年度総務省が通知する公営企業への一般会計への繰り出しが認められている経費以外の一般会計の負担(基準外繰出)が行われている。
2009年度には1億4,700万円がこの基準外繰り出しとして、一般会計が負担しており実質赤字額は1億7,200万円となる。
一般会計からの基準外繰り出しは利用者から徴収することが原則であり、この見直しによって毎年の約1億5,000万円がコスト削減となる。
(5)市営渡船志賀島航路の抜本的な見直し
福岡市議会2010年決算特別委員会(2010年10月7日)で、2009年度の市営渡船事業の歳入歳出等が明らかになっている。
上記をみれば、収支均衡しているが、実は歳入には9億4,000万円の一般会計繰入金がふくまれており、実質同額が赤字となっている旨の答弁がなされている。赤字をなくし、歳出15億弱を賄う事業収入となるためには乗客人員が現行の約100万人から約400万人へ4倍の利用増、貨物件数が約10万件から約40万件へ4倍の利用増が必要となるが、これは到底実現不可能である。
市営渡船の廃止により9億円の削減効果となる。
②行政サービスの見直し
(1)高齢者・障がい者への個人給付見直し
市では、高齢者への生きがい対策として高齢者等を対象に2011年度で以下の歳出を行っている。
これらの個人給付に見直しによって13億円のコスト削減効果となる。
(2)施設利用料の65歳以上減免の見直し
65歳以上を対象とした減免制度については市は以下の制度を行っており、仮に減免を廃止すれば以下の歳入が入ることとなる。ただし、減免であるがゆえに、有料化によってそのまま増収となるわけではないことに留意が必要である。
(3)公共施設付設駐車場の有料化
2012年7月から博多区役所の駐車場が有料となっている。区役所・区保健福祉センター利用者は90分間無料のようであるが、付帯施設の駐車場有料化は人件費や設備償却費等を加味すると赤字となるケースが多い。市は駐車場の有料化によって税外収入を増やすことを想定しているが、費用対効果を検証し、また周辺の交通事情を考慮の上で実施すべきである。
③公共施設の在り方の検討
(1)市営駐車場事業
博多区博多駅前4丁目や川端地下駐車場である。福岡市営駐車場特別会計は2012年度予算ベースでは以下のとおりであり収支均衡している。
これも市営渡船事業と同様に2億500万円を一般会計が負担しており実質赤字額は同額が赤字である。なお、歳出には公債費支出3億4375万円が含まれており、減価償却費は含まれないキャッシュベースであり損益ベースでの赤字額は不明である。
(2)今宿野外活動センター
今宿野外活動センターについては指定管理を行っており以下の状況となっている。
すなわち、4,449万円の歳出超過であり、これに市職員人件費や減価償却費を考慮すればさらに市負担額は膨らむこととなる。
【まとめ】
今回は、市が検討を進めるスクラップ案件を検証した。見直しまたは廃止によってかなりの金額のスクラップが可能であることがわかったが、冒頭に掲げられた851億円の財源不足を補うには全く足りていないことがわかる。一方で行政サービスの低下となるものについてはその必要性や受益者負担のあり方など十分な議論を行なうことが求められ、検討の結果として実行が困難となるものも想定される。
4年間で851億円の財源不足を解消することを命題として掲げられたこの有識者会議は財源捻出の面からは非常に厳しい状況に置かれているのである。
有識者会議の開催に当たっては、北川正恭座長(早稲田大学大学院教授)をはじめ委員への報酬や謝金、旅費等の支払いが行なわれている。また、会議には山崎副市長や局長、部課長、関連する職員の多くがこの会議のために準備を行ない、また当日の会議にも陪席で臨んでいる。これらの人件費コストは計り知れないくらい多額となるものであろう。これらの支出が無駄にならないように切に願うばかりである。
自立分権型行財政改革に関する有識者会議は2013年1月に第8回開催が予定されているが、そこではこれらの具体的な見直手法も含めて資料が提示される予定であり、筆者も引き続き注視していく。
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