<適応力を磨くが変化スピードが速い>
10月4日のことだ。来年、木質建材業界の会社を跡継ぐ予定の2代目候補と議論した。日進の松永浩典氏と近い年齢である。(1)オヤジのカリスマ性に立ち向かえない。(2)しかし、オヤジの築いたビジネスモデルでは会社は今後10年持たない。(3)ただし3年間は従来の本業が好調だから、その後、業態チェンジをする。(4)過去、いくつかのベンチャービジネスに着手した。収益があがるとことまで漕ぎつけた。(5)だが、時代は激変している。「構築できた」と喜んでいた"新たなビジネスモデル"は乗り越えられていった。2代目候補は周囲環境へ対応していく厳しさを次のように整理してくれた。
2代目松永社長もけっして怠けていたのではない。収益事業であった【フローリング事業】が健闘しているうちに、新たな"稼ぐビジネスモデル"を組み立てるのに必死であったのは事実。ところが本業の競争力が劣化していた。「プレカット材でも住器・建材でも何でも仕入れしてあげたいのだが、同業者と比較すると単価が高い。だから日進さんのライバルから買うようになってしまった」とは、前回登場した、元々≪ニッシンシンパ≫であった得意先のオヤジの談。
この指摘は、≪日進の競争力≫が衰退してしまったことを物語っている。
<為替デリバティブで命尽きる>
「輸入建材事業は為替差損が生じる」という判断でフローリング事業の縮小・撤退を決定した。当然、売上は大幅減少、半減以下になってしまった。15億円内外の状況になれば組織内は浮足立つ。松永社長も寝るに寝られない日々の連続だったことであっただろう。本当に同情する。「何か打開策を講じなければ」と焦燥に駆られるとあまり良策に巡り合うことはない。愚策しか思いつかない。
昨年末に「来年の秘策は?」というテーマで木質建材業界を取材した。ある会社の社長は「国産材を使用すると国から補助金がでる。この周知徹底の方法を工務店さんと一緒になって勉強していく。そのために組合を結成して我が社が事務局を仰せつかることになった」と語ってくれた。「なるほど。時流(国産材使用への補助金政策)にマッチした販売戦略だ。この会社の選択は、必ず成果が上げるだろう」と確信したのである。
一方、松永社長を取材したところ、「住宅に取りつけるソーラーには補助金がでる。工務店さんたちにこのソーラー取りつけ促進のお手伝いをしていきたい。そのための組合を立ち上げるつもりだ」とコメントした。これを耳にして直感的に「建材店が太陽ソーラー取り付けに注力する段階は終焉してしまった。今からは資本力があるところと激突することになろう。この選択は誤りだ」と確信した。案の定、立ち上げ予定の組合の事業スタートも大幅に遅れてしまったのだ。悪い時には悪い回転になるものである。
そして、自己破産という最悪の事態の引き金となったのは、輸入建材の仕入のために行なった為替相場であった。その為替デリバティブの差損が4ないし5億円発生したというのである。松永社長はここに至って自己破産の道を選んだという。いずれメインバンクの責任も表面化するであろうが、その取材は別の機会に譲ろう。同社の第2期事業の繁栄に貢献した輸入建材が破綻の引き金を引いたという事実は非情なものだ。それとともに木材業界、住宅業界の激変ぶりはファンション業界をも凌ぐことを証明したと言える倒産劇であった。
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