＜谷野頭取包囲網（１）＞
安芸本部長の北野俊弘常務は25日、広島駅から新幹線こだまに乗った。打ち合わせ通り松木東部支店長が次の駅の新東部駅から乗車し北野と合流した。東南駅には沢谷の支店長車が出迎えに来ており、２～３分で東南支店に到着した。一方西京支店長の吉沢常務は距離が近いこともあり、山陽自動車道経由でやって来た。集合時間の午後５時より早く全員が集まった。
４人は支店長室に入り、沢谷が中心になって谷野頭取を退任に追い込む方法についての話し合いが始まった。
沢谷は、
「急遽集まってもらうことになって申し訳ない。私を含めてここにいる皆さんは相談役に大変お世話になった人ばかりです。その相談役が谷野頭取の更迭を決意されたというのは並々のことではないと思います。いざ鎌倉ではないが、相談役あっての我々であることを良く肝に銘じて、今からどうすれば良いかについて忌憚のない意見をお聞かせください」
と、会議冒頭の挨拶をした。
続けて沢谷は、
「今から話しを進める上で、まずテーマを絞ることにしたいが、それでいいですか」
と提案した。それぞれの意見を集約した結果、第１の議題は更迭の時期および方法、第２はメンバーの選定、第３は谷野頭取更迭の理由づけ、第４は次期頭取を誰にするかの、４点を中心に話を進めることが決まった。
昨日、谷本と話し合った吉沢が、
「相談役が言われたのは、相手方に悟られないように秘密裡に行動すること。それにこの計画が外部の第三者に漏洩することがないようにすること。この２点を徹底するようにとの伝言がありました」
と述べ、第１のテーマである谷野頭取の退任時期およびその方法をどのようにすべきかの話し合いが本格的に始まった。
いろいろな案が出たが、最終的には、
（１）谷野頭取が来年６月に任期満了となるので、自発的に退任するように説得する。
（２）もし本人が自発的な退任を拒んだ場合は、谷野頭取の再任を否決する動議を提出して解任する。
との案が決まった。これによって谷野を退陣に追い込む具体的な時期と方法が決まった。
続いて第２の議題であるメンバーについての議論が始まった。谷野頭取が自発的な退任を拒否した場合、強硬手段として来年５月の臨時取締役会議で谷野頭取罷免の動議を提出することに決まったが、動議を成立させるためには取締役15名のうち、過半数を超える８名以上を確保することが絶対条件であった。話は誰に声を掛けるかに移っていった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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