<谷野頭取包囲網(2)>
メンバーの選定に入る前に、吉沢常務が、
「この話し合いは谷野頭取に退陣を迫る、いわばクーデター計画であるが、我々仲間内ですぐわかるような名称をつけた方が良いと思うが、どうだろうか」
と提案した。すると北野常務が、
「TY計画かTK計画と呼ぶのはどうですか」
と、即座に反応を示した。
沢谷が首をひねりながら、
「TYは何を意味するの。それとTKも」
と問うと、北野は得意顔になって、
「Tは谷本相談役の頭文字のTで、Yは山上さんのYから付けたもの。それともう一つのTKのTは谷野頭取の頭文字のT、Kはノックアウト(Knock Out)のKで、谷野をKOするという意味です。どちらも簡潔でわかりやすいと思うが」
と、相槌を求めるように解説をした。
すると今まで聞き役に徹していた松木が、
「私はTK計画の方が良いと思う。谷本相談役と谷野の二人がTであり、谷本相談役のTと、栗野会長のKを足したTKが、谷野をKOする意味も含まれており、TK計画に賛成したい」
と、強い調子で自分の考えを述べた。松木の気迫に圧倒された全員が、
「よしそれで行こう」
と口々に賛同し、名称は『TK計画』に決まった。
いよいよメンバーの選定に入ることになった。今日集まった沢谷、吉沢、北野、松木の4名に、栗野会長、上京中の川中常務を加え、合計6名は間違いなく賛同するとの分析がなされた。
そのなかで問題となったのは、今年6月に改選を迎える役員の動向であった。改選を迎えるのは栗野会長、沢谷専務、石野専務、吉沢常務、山本取締役、松木取締役、堀部取締役の7名であった。栗野会長の再選は間違いないにしても、沢谷専務や吉沢常務が再任されるかどうかが、この計画の成否を左右するとの意見が出された。
それに対して沢谷は、
「実はねえ 退任予定は福岡支店長の山本取締役一人で、後任には第16代組合書記長出身の原口俊也営業統括部長の昇格が内定との、極秘情報を栗野会長からもらっているので、その点はまったく問題ないよ」
と、満面に笑みを浮かべて披露した。
続けて沢谷は、
「今、固まっているのは6名で、あと2名で過半数に達するが、来年の5月までには1年以上ある。交通事故とか病気など、万が一のことも考えた場合、あと3人を仲間に入れておきたい。今はとりあえず過半数の8名を確保するには、誰に声を掛けたら良いかを考えてもらいたい」
と出席者一人一人の顔を見ながら意見を求めた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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