県民同士を対立させ、地域分断を図るのは、「子どもからお年寄りまで、すべての県民にとって優しくぬくもりのある社会」の構築を目指す伊藤祐一郎鹿児島県知事が最も得意とする手法である。陳情は無視、公開質問状には答えず、情報公開には応じない。民意など屁とも思っていないのが、いかにも高級官僚出身の知事である。彼の考える知事とは県民の代表ではなく、民を統治する者に他ならない。そんな伊藤知事が尊敬する人物は郷土の偉人、西郷隆盛。好きな言葉も「敬天愛人」だと言ってはばからない。

　伊藤県政を円滑に進める道具として、「公社」というものがある。最近、とくにその活動が目立つのは「鹿児島県環境整備公社」と「鹿児島県住宅供給公社」である。前者は前述の薩摩川内市の産廃処分場建設を強引に進める機関であり、後者は鹿児島市松陽台町、自らが宅地販売を行なってきた「ガーデンヒルズ松陽台」で、土地購入者を騙して、県営住宅移転大増設の計画を強行している機関である。両者は県職員が出向して作られた組織で、独立性はなく、県の指示を受けて動いている。役所と県と別組織のこの装置を使いわけることで、県はある時は公権力を発動し、またある時は「民間」の顔を装うのである。鹿児島県住宅供給公社は、市民の声を聞くための制度を悪用し、民間の地権者として、現在鹿児島市に、戸建て用地としていた土地およそ６ヘクタールすべてに県営住宅が建設できるよう、土地計画変更提案を提出している。一方、鹿児島市には住民から反対陳情が出されていると聞く。

　普通であれば、県政をチェックするのは県議会となるのだが、鹿児島県議会はまったくその役を果たしていない。彼らは伊藤県政を推進するアクセルであり、ブレーキがないため、その暴走を許すだけなのだ。県民から出された反対陳情を採択したことなど、少なくとも近年はないだろう。県議会議員に尋ねてみたが、「ある」という回答は返って来なかった。８割以上の住民が契約違反として反対する先の松陽台・県営住宅移転大増設の問題にしても、昨年12月の議会で、県住宅政策室の作った捏造データに基づいて、反対陳情を「不採択」にしている。「捏造」と言えるのは、松陽台町の６割を占める既設の県営住宅住民には聞き取りをせずに、「県の計画に賛成」として世帯すべてが加算されていること、加えてデータでは「賛成、理解、とくに意見なし」を合算するなど、集計に恣意性が見られるためである。

　鹿児島県議会の異常性、そのレベルの低さは、傍聴していただければすぐわかる。地元マスコミを味方につけていることもあり、まったく緊張感のない緩い議論が行なわれているのだ。聞かれるのは、我が町への利権の誘導と歯が浮くような伊藤知事への賛辞ばかり。定数51のうち34と大きく過半数を上回る議席を持つ土建と利権の自民党だけでなく、社民・民主の融合体「県民連合」も公明党および無所属議員の多くも、寄らば大樹の陰、伊藤県政を支える、言わば翼賛体制にあるのだ。

　頼みの綱の第三の権力のマスコミだが、鹿児島のマスコミは県職員同様、思考停止の状態にある。県庁内の記者クラブに待機して、担当課から投げ込まれる記者発表資料を受け取り、それをただ垂れ流すだけ。彼らには事業の内容を詳細に調べることも、事件の真相を探ろうというジャーナリスト精神も微塵も感じられない。県からは圧力はかかっていないというが、それ以前に彼らのなかで「自主規制」が働いているのは明らかだ。

　数多くの問題がある、いわば突っ込みどころ満載の鹿児島県。そこにいながら、彼らが追うのは当たり障りのないイベントや季節ネタばかり。県外メディアにすっぱ抜かれても、何とも思わないのだろう。彼らにはもはや報道に携わる者としての矜持は見当たらない。
　鹿児島の惨状を、良識ある市民の手によって、また良識あるメディアを通じて、鹿児島のみならず、日本中の人々に知らせていくことが、鹿児島の明るい未来を切り拓く第一歩となるものと信じて、この度は寄稿させていただいた。目覚めよ薩摩！心からそう願う。

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