過去福岡地所および九州リースサービスの経営者として、地場企業の経営活性化に尽力した榎本重孝氏。現在は、エフ・ジェイホテルズの代表取締役会長そして福岡地所の特別顧問に就任し、それぞれの組織を温かな眼で見守り続けている。自らは、控えめな姿勢で経営のかじ取りを実践する。九州リースサービス時代は、バブル崩壊後の再建へ尽力し強い企業体質を創り上げた。また、地元中小企業に対して、最大限サポートし地場経済の活性化へ多大な貢献を実践してきた。その根底には、「人と地域を幸せにする」という榎本会長の揺るぎない哲学が存在する。今回は、福岡のあるべき姿と、その未来を担うリーダーたちに対して、ひとつの道しるべを示す。
<祖父の背中を見て学んだ経営者としての哲学>
――地元へ貢献という哲学を今も体現されておりますね
榎本 私が、幼少の頃より祖父(四島一二三氏。福岡相互銀行創始者)から聞かされておりました。祖父は、明治の時代にアメリカへ渡って事業を興した人物です。その祖父が言っていたのは「地元への貢献と人の道を守ること」というシンプルなことです。その祖父の話は、今も私の礎です。祖父は、95歳で天寿を全うしましたが、90歳くらいまで顧客回りを自ら実践しておりました。新たな店舗が開設される度に、自ら店頭に立ちお客様をお迎えし、お見送りしておりました。また、顧客には一切難しい話をせずに、健康や日常生活の知恵など身近な話をして、コミュニケーションを構築し信頼関係を創り上げていたのです。名声や金銭に執着せず、人と地域を愛し人々の幸せのために貢献することが企業経営者である、という哲学を、終生実践し続けた祖父から学びました。祖父は言葉であれこれ言うより、自分が実践する姿を見せることで、事業家そして人間としての姿勢を伝えてくれたのではないでしょうか。自ら考え、実践し、学ぶという姿勢ですね。
――現職の会長として、その姿勢を貫かれておりますね
榎本 そうですね。私もあれこれ言うことはいたしません。今、経営の実務をマネジメントしているメンバーがわかっていますから。地元関係との交渉や事業計画に対する相談があれば、アドバイスしたり自ら交渉したりは致します。ただ基本姿勢は、実際にマネジメントを遂行しているメンバーに任せています。私自身もそうであったように、自らがやってみて検証して、そして改良していくことで成長できるのではないでしょうか。私がなすべきことは、見守りそして責を負うことです。
――話は変わりますが、今まで成り立っていた流通やレジャーにおける天神と博多の共存共栄の姿勢が、崩れてきているのではないでしょうか
榎本 その通りです。今まで、天神と博多の良き点をそれぞれが活かして共存共栄という市場を構成しておりましたが、今は対立関係ですね。とても残念なことです。"福岡に来訪していただいた方に、博多まで回遊していただく"という、お互いの街を尊重し協力しあってきたリーダーたちが創り上げてきた体制を、今一度見直すべきではないでしょうか。キャナルシティ博多が1996年4月に開業する以前、天神と博多は点であり繋ぐものはありませんでした。それが開業後、キャナルが一つの中継地点となって、天神と博多が線で結ばれたと実感しています。次は、線を面にしするよう発展させていかねばならなかったのですが、いつの間にか点に戻ってしまっている。本当に勿体ないです。
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