ソフトバンクの孫正義社長が大博打を打つ。米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを買収する。5位のメトロPCSコミュニケーションズの買収も検討している。スプリントとメトロの買収が実現した場合、買収額は計2兆円超。2007年の日本たばこ産業(JT)による英たばこ大手ギャラハン・グループ買収(買収総額2兆2,500億円)以来の規模だ。
10月12日の東京株式市場では、ソフトバンク株が急落した。終値は436円安の2,395円。下落率は16.9%。米社買収により2兆円の資金が必要という報道を受けて、資金面で不安になった投資家の大量売りにつながった。
ソフトバンクが株式交換による買収を発表している国内携帯電話4位イー・アクセスの株価も、制限値幅の下限(ストップ安)水準の3万9,600円まで下落した。
<評価が分かれる超大型買収>
孫社長の大博打に対する評価は分かれる。失敗すれば経営の屋台骨が揺らぎ、孫社長の経営責任は免れない。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は12日、投資負担を理由にソフトバンクの格付け(BBB)を引き下げる検討に入った。
一方で、孫社長の経営手腕を高く評価する投資家も少なくない。6年前、ソフトバンクは約2兆円で英ボーダフォンから日本法人(現ソフトバンクモバイル)を買収して携帯電話に参入した。あの時も、株価は大幅下落した。理由は、買収金額が大きく、借入金負担が懸念される、というもの。今回の下落の理由と同じである。
ボーダフォン日本法人買収時、S&Pは、ソフトバンクの格付けをBBマイナスとジャンク債扱いにした。機関投資家に、ソフトバンクの社債は債務不履行になる恐れがあるから買ってはいけないと警告したわけだ。
このように周囲はおっかなびっくりで見ていたが、ソフトバンクはボーダフォン日本法人の買収に大成功。携帯電話事業は、今日、ソフトバンクの主柱になった。"孫神話"は燦然と輝いている。
ましてや、今は円高だ。当時の円相場は1ドル=116円台。現在、1ドル=80円という超円高だ。円建ての買収金額を抑えられるので、海外企業を買収するのには絶好のタイミング。一時、株価は下落しても、以前のように株価は回復すると期待する向きは結構、多いのである。
それでは、孫社長の大きな博打をどう考えたらよいか。英ボーダフォン日本法人の買収と、今回の米スプリントとメトロの買収とでは、決定的に違う点が2つある。
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