<無関心が地方行政の最大の問題>
市HPのフェイスブック移行、公立図書館のTSUTAYAへの民間委託といった斬新な発想と、歯に衣を着せぬ大胆な物言いで日本全国から注目を集めている武雄市長・樋渡啓祐氏。ほとんどのメディアは、「天才肌の若手市長」ともてはやす。しかし、樋渡市長の著作や講演、そして取材のなかで感じるのは、民意に重きをおき、「真に市民のためか?」を追及するオーソドックスな政治姿勢である。
つまり、樋渡武雄市政の政策は、社会環境の激変のなかで市民のニーズを具現化したものであり、時代遅れな行政からすれば「前例がない」とされるのも当たり前なのだ。
民意に重きをおく政治姿勢は、「地方の最大の問題は無関心」という樋渡市長の言葉にも現れている。同氏が重視しているのは、政治・行政と市民の距離感。自治体の規模については決して謙遜ではなく、「僕は10万人が限界」と断じる。
自治体規模が大きいほどに役所と市民の日常はかけ離れていく。そこで効率を重視すれば、行政サービスの受益者(市民)の声が届きにくいところで各種施策が決まっていく。人口規模の大きい自治体は、役所が『霞が関の地方版』となる問題さえ孕んでいる。
<政治は最大のエンターテインメント>
一方で、行政組織自体も人口に比例して大きくなる。職員数が増えることで、民意を受けた首長と職員との距離が離れていく。ガバナンスの問題が発生し、モラルの低下が不祥事の温床にもなる。
時には、傑出したリーダーシップを持つ首長によって、質の高い行政サービスによる安寧がもたらされることはある。しかし、首長の交代によって、行政の劣化が起きた事例は少なくはない。その劣化を防ぐために、分割統治も視野に入れた組織規模の見直しが必要だと樋渡市長は説く。人口約150万人の福岡市には、「7区の区長を公募にし、それぞれ競わせること」「市長も区長を兼務し、実体を作ること」と提言する。
行政における距離感の問題について、樋渡市長は「政治は最大のエンターテイメント」と解決策を示す。武雄市長選挙の投票率は2006年4月82.84%、2010年4月79.20%と約80%で推移している。ちなみに、市立病院の民間移譲に反対するリコールの動きを受けて、樋渡市長が辞職し、出直し選挙に挑んだ時が投票率70.84%。いずれにしても他自治体の首長選挙のなかで高い数値であることは間違いない。
武雄市民の地元行政への関心が高い例は選挙の投票率だけではない。ケーブルテレビの市議会中継は、樋渡市長と市議の激しいやり取りが行われる一般質問時、視聴率50%、傍聴者は200人、ユーストリームでは2,000人が視聴するという。樋渡市政が民意に近いところで行なわれていることをまず抑えておかねばならない。
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