<谷野頭取包囲網(3)>
候補に挙がったのは、気心の知れた組合出身の役員であった。まず第15代組合書記長で、現在取締役本店長の大島俊之であった。それともう1人は第18代組合委員長で、事務管理担当取締役の木下秀男であった。
沢谷が、
「大島取締役には今日4人が集まって、さっきネーミングが決まったTK計画の話し合いをすると伝えている。電話のなかで大島取締役は、谷野頭取とはウマが合わないので是非メンバーに加えてほしいと言ってきた。本人からも強い要望もあり、メンバーに入れたいがどうだろうか」
と提案した。
すると松木取締役が、
「沢谷専務が大島取締役にその件を話した後、実は大島取締役から是非この会合のメンバーに入りたいので、宜しく頼みますと念を押す電話があった」
と披露した。
大島が松木に電話したのは、松木が第15代組合の副委員長で、大島が書記長を務めた関係からであった。
吉沢も、
「実は僕にも大島君から、今日の会合になぜ声を掛けてくれなかったのかと電話があった。それで大島君に言ったのは、この会合は極秘裏にやらないといけないので本店から遠いメンバー4人が集まった。必ずメンバーに入ってもらうと言って電話を切った」
と、しっかりした口調で語った。これによって大島がメンバーに加わることが決まった。これで過半数まで残り1名となった。しかし絶対安全な9名にはもう二人必要であった。
ここで事務管理担当の木下秀男取締役に声を掛けるかどうかに話が移っていった。沢谷は本店長の大島取締役だけでなく、東京出張中の川中本部長にも今日4人が集まって会合する旨の電話をしており、既に川中から参加の意思表示は受けていた。
沢谷は、
「川中常務にもメンバーについて相談したら、今日先程決まった7人に加え、木下取締役にも声を掛けた方が良いのではと言っていた」
と伝えた。
すると吉沢が、
「木下取締役は背中を痛めているし、谷野頭取の側近の立場でもあり、二重の苦しみを負わせることになるので、声を掛けない方がいいのではないか」
と、木下に声を掛けることに異を唱えた。
北野も、
「木下取締役は、谷野頭取や石原専務、それに梅原取締役や小林取締役と一緒に瀬戸内海で良く飲んでいると聞くし、木下取締役はこの話を聞いたらむしろ反対に回って、計画自体が崩壊する恐れがある。声を掛けるのは絶対に止めておいた方が良い」
と、吉沢の意見に同調した。これによって木下には声を掛けないことが決まった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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