<あなたを守りたい>
樋渡市長の著書「首長パンチ」(講談社)は、総務省官僚の時代、武雄市長への就任、そして市民病院問題をめぐるリコール騒動と出直し選挙などについて書き綴られている。そのなかには、改革派市長が受ける既得権側の厳しい抵抗が具に記されているが、思わず目頭が熱くなるエピソードもある。出直し選挙で苦戦を感じていた樋渡市長の元に、ある高齢の女性が杖をつきながら駆けつけたという話だ。
以下、その場面について引用する。
「わたしは末期のがんです。でも、助かりたい。病院を守ってくんしゃい。わたしを守ってくんしゃい。そのために勝ってくんしゃい」
誰もが言葉が出なかった。おばあちゃんの言葉が、胸に突き刺さったのだ。僕らが守ろうとしているものは何か。激しい選挙戦に突入して相手候補しか見えていなかった僕はハッとした。守ろうとしていたのは命ではないか。(引用終り)
<小さいからこそ手早くできる>
全国の自治体にとっての「ロールモデルを目指す」という樋渡市長だが、もうすでにその目標が現実のものとなりつつある。
武雄市役所の玄関の壁には、視察に訪れる地方議会議員団の名前がズラリと並ぶ。武雄市は、同市に宿泊することを視察受け入れの条件としているが訪問団はひっきりなし。「あまりにも多いので、次からは(条件を)2泊3日にしようかと思っています(笑)」と樋渡市長。武雄市では行政自体が観光資源化しているといっても過言ではない。
取材で訪れた当日、岡山県議会の議員らが武雄市役所を訪れていた。個別具体的な話は担当職員にまかせるが、樋渡市長自らも質問に答える。その様子を見学した際、武雄市が開設した地元特産品を扱うショップサイト「F&B良品」の運営について質問が出ていた。真剣な面持ちで樋渡市長や担当職員の説明を聞く視察団御一行。樋渡市長就任時、武雄市がここまで注目を集める存在になると、想像できた人がはたしていただろうか。
「報道やSNSで伝わることで『あの武雄ができるんだから、うちもできる』となる。インターネットが普及している今だからこそ、そういう影響を与えられるようになっています。図書館をTSUTAYAへ委託する話も、全国で『うちもやりたい』となっているわけです。それも、単に僕が『やりたい』と口で言っているだけではダメで、実体があるからです」(樋渡市長)
「スピードは最大の付加価値」という樋渡市長は、人口5万の市ならではのフットワークの軽さを活かす。市民のための行政サービスの充実が「小さいからこそ手早くできる」という事実を積み重ねている。
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