＜谷野頭取包囲網（７）＞
　沢谷達４人が集まった３日後の４月28日（月）の午後１時より、維新銀行６階の役員会議室で臨時の決算役員会が開催された。内容は前期３月期における決算の進捗報告と税制改正に伴う決算処理の変更などが議題であった。谷野頭取が発表した赤字決算の内容に沿うもので大きな変動はなく、会議は３時前に何ごともなく終わった。

　沢谷は秘書室長と雑談を交わした後、同じ階にある谷本相談役室に向かった。女性秘書に案内されて応接室に入ると、沢谷を追うように本店長の大島取締役も入って来た。既に吉沢常務、北野常務、松木取締役、古谷取締役の４人が谷本相談役を囲んで談笑していた。暫くして栗野会長と川中常務が加わり、谷本を中心に「谷野頭取罷免のクーデター計画」に参加する８名のメンバーが集まった。８名が一堂に会しても臨時取締役会後であり誰からも怪しまれることはなかった。

　金曜日に４人で話し合った内容について、沢谷が、出席しなかったメンバーにもわかりやすいように話をした。

　「谷本相談役のご指導のもとに、ここに集まった８人が谷野頭取罷免の行動を起こすことで話がまとまりました。話し合われた１つ目の議題は、谷野罷免のクーデター計画の名称を、北野常務が提案した『ＴＫ計画』とすることにしました。

　２つ目は、役員間の争いと見られないようにするため、来年５月初旬の定例取締役会議後に谷野頭取に自発的な辞任を促すように説得することを決めました。誰が説得に当たるかは今後決めることになります。

　３つ目は、いくら説得を続けても谷野頭取が辞任を拒否した場合は、非常手段として、来年５月21日（金）に開催予定の臨時決算役員会議で、谷野頭取の取締役再任決議に反対の動議を提出して解任することに決めました。

　４つ目は、メンバーの選定について話し合いました。谷野再任の反対動議は出席役員の過半数の決議が絶対条件であり、今日ここに集まった８人で過半数となります。組合委員長出身の木下取締役の名前も出ましたが、谷野頭取の側近でもあり正当論を持ち出して、こちらの計画をつぶしかねないとの意見が出て、誘わないことにしました。ただ、ギリギリの過半数の８人では、病気などの不慮な出来事も予想されるため、もう１人確保しておいた方が良いとの意見が出て、取締役に内定している原口君に声を掛けるようにしています。

　５つ目は、谷野頭取更迭理由については現在のところ適当な理由が見当たらないので保留としていますが、何か良いお考えがあればご提案をお願いします。

　６つ目は、谷野頭取罷免後の次期頭取候補ですが、吉沢常務の名前が挙がりました。しかし常務からは今決めるのは早いので、もう少しあとで決めたら良いとの発言があり保留となっています。本人は谷本相談役や栗野会長のお考えに従うと言っています」

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行　第二部　払暁」～第１章　谷野頭取交代劇への序曲（１）

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