<谷野頭取包囲網(8)>
沢谷の話に目を瞑ってじっと聞いていた谷本が、
「今日こうして皆さんに集まって頂いて、本当に有難く思っています。そもそもこの様な原因を作ったのは、私の谷野君を見る目がなかったということに尽きると思う。私の人選ミスで、ここにいる役員の皆さんに大変なご苦労とご迷惑をおかけして、誠に申し訳なく思っています。今後の対応については先程、沢谷専務から大まかな話があったようなスケジュールで進めてもらうことになるが、くれぐれもこの計画が相手方に漏れることがないように、慎重に対応してもらいたいし、沢谷君には事前に話していたが、決して第三者に漏洩しないように注意してもらいたい。もし漏洩してマスコミが知るところとなれば、この計画自体が駄目になるだけでなく、維新銀行の信用が大きく傷つけられ、大スキャンダルになる可能性があるので慎重の上にも慎重に事を運んでもらいたい」
と、述べた。
谷本の言葉を受けて会長の栗野が、
「谷本相談役のお陰で会長にして頂いたのに、谷野頭取の独走を止めることもできず、この様な事態になって本当に申し訳なく思っています」
と、谷本に向かって深く頭を下げた。続けて、
「谷野頭取を罷免するのに僕がそのまま残るわけにもいかないので、二人同時に退任することになる。僅か2年で会長、頭取が退任と言うことになれば、恐らくマスコミはいろいろと書き立てることになり、維新銀行にとって大変な事態になることは間違いない。ただ、ここで大切なことを忘れてはいけない。維新銀行は伝統的に役員同士の和を大切にしてきた。しかし谷野頭取は、たとえ役員が言うことであっても言下に否定したり、まして後継指名をした大恩人の相談役に対しても無礼極まる態度を見せたり、人前も憚らず傍若無人の言動は絶対に許すことが出来ない危機的な状況を迎えている。合併の歴史の中で維新銀行が築いてきた役員間の協調が、今まさに破壊されそうになっている。それを守るためにみんなの力を結集して谷野頭取を罷免するのであって、決して天に恥じる行動ではない。このことだけはしっかり肝に銘じておいてほしい」
と、熱っぽく語りかけた。
谷本は、
「短時間のうちに、良くここまでまとめてくれて礼を言いたい」
と、沢谷に頭を下げると、沢谷は恐縮してひれ伏すように頭を下げた。
こうした情景を目の当たりにした役員一同は、谷本相談役への忠誠心をより強く持つようになっていった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)
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