<谷野頭取包囲網(12)>
中国財務局も一週間も経たず、立て続けに2度の不祥事が発生した維新銀行に対し、厳しい態度に臨む姿勢を露わにした。維新銀行は金融庁から2度の業務改善命令を受けることになり、行内はいっぺんに自粛ムードに包まれることになった。
谷野頭取を始めとする本部管掌役員は多忙を極めることになった。続けざまに発生した事件の業務改善命令に基づく計画書の作成、それに沿った実施報告およびその検証結果を、毎月中国財務局に報告することが求められた。
事態を重く見た谷野頭取は臨時に全店長を召集する会議を開催した。最初に木下取締役が情報漏洩事件についての経緯と事故防止策を話し、続いて経営管理部門担当の小林取締役が、男子行員によるATMの現金900万円の搾取事件およびその後に発覚した顧客預金の流用事件について説明し、再発防止を徹底するよう訴えた。
最後に登壇した谷野頭取は、
「コンプライアンスと言う言葉がありますが、直訳すると『法令遵守』となります。文字通り解釈するならば、『法令違反をしないこと』、つまり『法令や条例を順守する』ことになります。しかし、そのような意味だけに使われるのであれば、何もコンプライアンスなどと英語読みする必要はありません。最近コンプライアンスが重要視されるのは、そのなかに『法令遵守』だけではなく、『社内規程』、『事務規程』や『企業倫理』の順守、さらに企業リスクを回避するためにはどういうルールを設定して行くのか、どのように運用して行くのかを考え、その環境の整備までが含まれているからです。
今日出席している全店長は、再度当行の規程集を読み直し、事故防止のために行員一人ひとりが何をなすべきかを、真剣に考えて行動してもらいたい。今回の事件を教訓として初心に帰り、事故を未然に防ぐ態勢の再構築が必要です。研修制度の中味を代えて、事故防止の徹底を図っていきます。企業リスクを回避するためには、まず一人ひとりの行員がコンプライアンスに則り、行動することが大切です。次に相互牽制によって事故の未然防止及び再発防止を図ることが最も大切です。
この様な事件が立て続けに発生したのは、維新銀行始まって以来のことです。もう一度この様な事故が起こせばね営業停止と言う不測の重い処分も覚悟しなくてはいけません。どうか支店に帰られたら、コンプライアンス違反がないかどうか人任せではなく、自分の目でしっかり点検してもらいたい。また行員に今日話した内容について、周知徹底をして事故の絶無に全力で取り組んでほしい」
と、必死に語りかけて全店長会議を終えた。
谷野頭取の懸命な語りかけに冷ややかな視線を浴びせたのは、「TK計画」に参加した七人の取締役たちであった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)
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