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濱口和久「本気の安保論」

20年前と何も変わっていない日本の政治(国会)の現状
濱口和久「本気の安保論」
2012年10月26日 10:41
日本政策研究センター研究員 濱口 和久

isihara_01.jpg 石原慎太郎東京都知事が任期半ばにして都知事を辞任し、1年以内に行なわれる衆議院総選挙に立候補することを表明した。20年前、石原氏は衆議院議員であった。その後、東京都知事となり、今回再び衆議院議員を目指すとしている。
 下記の原稿は、私が防衛大学校4学年時に出場したフジサンケイグループ行革キャンペーン実行委員会主催第9回土光杯全日本学生弁論大会での発表原稿『国際社会に通用する政治改革の断行を』である。
 改めて読み直してみると、石原氏が衆議院議員だったころの20年前と何ら日本の政治(国会)の現状が変わっていないことがよくわかる。少々長い原稿だが、全文をここに掲載する。

 昨年、わが国の国会は、PKO法案を巡って、様々な議論が展開されました。防衛大学校の学生としてこの議論を眺めていて疑問に思ったことが幾つかありました。
 そのなかの1つに、PKOへの自衛隊の参加は海外派兵であり、いつか歯止めを失い、海外侵略につながるという議論です。実際、自衛隊の運用はシビリアンコントロールの下でなされます。すなわち派遣される兵力も装備も、それに期間も国民から選ばれた代表者による国会の議決により決定されます。
 しかし、そのような議論がなされるということは、政治家や国民が我国の国会における民主主義の手続きに対して信頼を置いていないのでは、ということです。
 2つ目は議会のもたつきにより国際貢献のタイミングを失うのではないかということです。
 3つ目は、もし万が一にも仮に日本が有事の場合、今のような政治体制のままで、政治家がリーダーシップを本当に発揮してくれるのか。あるいはシビリアンコントロールの下で動かなければならない自衛隊が、有事にうまく対処できるよう政治が機能してくれるのかという不安です。これらの事を解決するための様々な改善策があるなかで、次の3つの実現が緊急だと考えます。

 まず第1に、年間を通じて開かれる通年国会の実現をはかるということです。湾岸戦争では、折角、多額の資金貢献を行なったにもかかわらず、国会が休会中ということでそのタイミングを失って、国際的批判を受けました。しかし国会が常に開かれていれば、適切に国際的貢献を果たすことも出来るでしょう。同時に有事の際にも迅速に対応できるはずです。

 また、現在の国会は一度閉会すると審議の終わっていない法案は審議未了、あるいは廃案となります。このため与野党の意見の対立するような法案が提出されると、野党は審議を引き伸ばし何とか廃案に持ち込んだり、取り引きの材料にしようとします。加えて審議拒否やPKO法案が可決された時に見られた一部野党による牛歩戦術などの物理的抵抗は、国民の政治不信を生むだけで何の進歩もありません。このような現状を少しでも打開するためにも現在の会期不継続の原則を改めて、法案は議員の任期中は継続審議する形での通年国会の実現をはかるべきなのです。

 第2に、国会が言論の府としての役割を果たすために、ディベート中心の議会運営に改めるべきです。政治家は自分の言葉で政策を語るべきであり、国会は政治家同士のディベート、つまり討論あるいは政策論争の場でなければなりません。そのために政治家はあくまでも官僚に依存すべきではありません。たとえば国会内の委員会においても、現在のような野党のただ「質問するだけ」、閣僚は「答弁するだけ」、おまけに答弁が官僚の書いた「作文」をただ読み上げるだけのケースが多いと聞いています。これでは政治に緊張など生まれるはずがありません。やはり討論中心の議会運営という観点から政府対議員ではなく、国会は政党対政党として政策を掲げた討論の場とすべきです。政権党対野党という形で、自由闊達な討論をするのです。答弁書を持たず、大所高所から討論すべきなのです。国民にとって政権党対野党の1対1の対決は、わかりやすいはずです。

 討論しやすいようにイギリス議会のように、ベンチ形式に変えることも1つの手でしょう。それに加えて、やはり実りある討論に結びつけるために、当然、議員や政党に政策立案のスタッフの充実をはかる必要があります。政党に政策研究所を設けたり、行政に頼らない独自の情報を持ち、議員にも政策スタッフを設けるための補助を国から出すべきです。こうした点が実現出来れば、国会審議の質的向上にもつながり、目に見える形での政治の実行ができるはずです。

 第3に、国会で与野党の意見が対立するなど、事態が行き詰まった場合には、国民の判断を仰ぐことも必要になってくるでしょう。つまり間接民主政治である日本の議会制のなかに必要に応じて限定的に直接民主政治の手法である国民投票を実施し、国民の審判を仰ぐことも必要になってくるのです。湾岸戦争の時の自衛隊派遣問題、カンボジア和平への自衛隊のPKOへの積極的な参加などは、国民の判断をもっと早く集めることができたならば、あれほど政策決定に時間はかからなかったでしょう。

 以上述べたような「通年国会の実現」「ディベート型の議会」「国民投票の実施」というような政治改革の実現は簡単なことではありません。いずれも憲法問題と絡んでくるからです。憲法では国会の会期の会期制を定めており、国民投票の制度化に関しても簡単にいくものではありません。

 しかし、いつまでも日本国憲法を「不磨の大典」として扱うべきではありません。思い切って憲法問題にまで踏み込んだ活発な議論を戦わせるなかで政治改革を行なうことが必要なのです。自衛隊の海外へのPKO派遣にあたっても憲法違反との声が根強くありました。 
 憲法の規定ゆえに国際的な要請にも答えられないというなら、日本の現在置かれている立場から、これらの点も含めて改めて検討する時期に来ているのです。 
 日本国憲法が制定されて以来約半世紀が経ちました。日本国憲法は改正規定が国会議員の3分2以上の賛成と、国民投票の過半数の賛成というきわめて厳格な規定であることや、憲法議論が戦後、日本国内において「腫れ物にさわる」かのごとくタブー視されてきたこともあり、一度も改正されたことのない、世界でもまれな憲法なのです。

 本来、憲法の内容が国内外を問わず社会の情勢に対応しきれない状況が出てくれば、これを改正し、補うことはむしろ当たり前の政治的な責務と言わなければなりません。国際社会においては、ベルリンの壁の崩壊に続く一連の東欧、ソ連邦の崩壊による東西冷戦構造が終焉した今日、世界が新たな国際秩序を模索するなかで、国際的な政治的視点に立って憲法問題を議論する必要があるのです。
 憲法改正なくして真の政治改革はないという立場で、今こそ、憲法見直しまで踏み込んだ大胆な政治改革を断行するのです。そうして政治を活性化し、きたるべき新しい時代、21世紀の国際社会に通用する国家となるべく備えるべきなのです。

 日本の政治はこの20年間、何をしてきたのか。石原氏が80歳にして、都知事を辞して、再び衆議院議員を目指すのも、日本の現状および将来を憂いてのことだろう。石原氏の行動が、日本の政治の起爆剤になることを期待したい。

(了)

<プロフィール>
hamaguti_p.jpg濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第3版)が発売された。 公式HPはコチラ


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